自己破産で同時廃止となるケースとは?

自己破産で同時廃止となるケースとは?

同時廃止の意味やメリット,同時廃止となるための要件や基準について解説します。自己破産手続には,大きく分けて同時廃止と管財事件の2種類があります。管財費用がかからないため,同時廃止のほうが裁判所費用(予納金)が安く,期間も短くて済むことが多いため,メリットが多いのが特徴です。ただし,同時廃止の基準に当てはまらない場合は,管財事件での申立てとなります。

自己破産の同時廃止事件とは何か?

同時廃止事件とは,2種類ある自己破産の手続きの1つで,財産のない人を対象とする,簡易でスピーディーな手続きです。

自己破産した際に,不動産などの高価な財産を持っている場合は,「破産管財人」という,破産の専門知識を持った弁護士が裁判所から選任され,財産を調査・管理・処分して債権者に分配します。このように,財産処分の手続きを経て破産手続が終了することを「異時廃止」と言います。

しかしながら,換価できる財産を持っていない場合は,破産管財人を選任する理由がありません。そのため,破産手続の開始と同時に破産手続が終了します。これを「同時廃止」と呼んでいます。

ただし,財産がなくても同時廃止にならないケースがあります。自己破産を同時廃止で終わらせたい人のために,ポイントと振り分けの基準,注意点をまとめました。

自己破産の同時廃止と管財事件

自己破産の手続きは大きく分けて2種類あり,破産管財人を裁判所が選任して行われる手続きを「管財事件」と言い,破産管財人を選任しない手続きを「同時廃止事件」と言います。
管財事件はさらに,「特定管財」と,管財事件の一部の手続きを簡略化した「少額管財」(裁判所により名称が異なる場合もあります。)に分かれています。特定管財は大企業や複雑な事案向けの手続きで,個人の場合,通常は同時廃止か少額管財のどちらかになります。
(裁判所によっては,少額管財という区分がない裁判所もあります。)

管財事件が原則,同時廃止は例外

破産事件の手続きは,原則として「管財事件」により,破産管財人を選任して執り行うのがルールです。

例えば,高価な骨董品や美術品,宝飾品などを購入する浪費癖がエスカレートして自己破産に至った場合,それらの高価品を手元に置いたまま,自己破産で借金を帳消しにできるのであれば,債権が回収できなくなる債権者にとってあまりに不公平です。

そのため,生活用品や,処分しても20万円に満たない財産などを除き,財産は破産管財人が間違いのないよう管理し,換価処分し,得られた金銭は債権者に分配されます。

会社などの法人が破産する場合は,取引先や従業員など多くの利害関係者が存在し,財産があることも多いため,原則として同時廃止とはならず,管財事件となります。

しかしながら,個人の場合は,自己破産手続をする時点で,目立った財産を持っていないケースも少なくありません。そのため,破産法は,第216条1項で,財産のない人向けに,同時廃止手続について定めています。

【破産法第216条1項】
裁判所は,破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは,破産手続開始の決定と同時に,破産手続廃止の決定をしなければならない。

つまり,破産者に財産がなく,破産管財人を選任して手続きをする費用もない場合は,破産管財人を選任せず同時廃止とするというルールです。

裁判所に申し立てた自己破産手続が,同時廃止となるかどうかは,裁判所が判断して決定します。まず,申立時に同時廃止か管財事件を選択して申立てをしますが,同時廃止で進められるかの決定は裁判所が行います。したがって,同時廃止で申立てをしたけど,裁判所の判断で管財事件となる,といったケースもあります。

同時廃止と管財事件の割合は?

令和2年度の司法統計によれば,自然人の自己破産のうち,同時廃止が4万5,464件だったのに対し,異時廃止(管財事件)は2万610件となっており,全体の68.8%が同時廃止による自己破産となっています。

【自然人の自己破産件数】

令和2年度 司法統計「第108表 破産既済事件数―破産者及び終局区分別―全地方裁判所(https://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/list?page=8&filter%5Btype%5D=1&filter%5ByYear%5D=2020&filter%5ByCategory%5D=1)」より

法律上は管財事件が原則で,同時廃止が例外ですが,実際には7割近い人が,同時廃止による簡易な手続きで,免責を受けられています。

同時廃止の方が債務者に有利な理由

同時廃止となった場合は,裁判所に納める費用が管財事件の10分の1程で済むほか,手続きにかかる期間も短縮できるケースが多いです。予納金は,同時廃止の場合は約2万円前後ですが,管財事件となる場合には別途管財費用が20万円(裁判所により変動あり)かかります。手続き期間は,同時廃止の場合は,2~4か月程度ですが,管財事件の場合,3~6か月程度かかることが多いです。
経済的に困っている中,費用面のメリットは大きいですが,他にも,特に警備員など,破産手続中は資格制限がある職業の場合は,できるだけ早く手続きを終わらせて制限から解放されたいという希望もあるかと思います。

管財事件となった場合の制限 (その他の同時廃止のメリット)

①破産管財人との面談・指示に従う

管財事件となった場合には,破産管財人と面接し,管財人の指示には従わなくてはなりません。嘘をついたり,指示に従わなかったりすると,悪質な場合は免責不許可事由にあたるとして,免責が受けられなくなる可能性があります。

「免責」とは,借金を帳消しにする制度のことです。免責の許可が下りないと,自己破産をしても借金が無くならないため,とても重要な制度と言えます。

「免責不許可事由」とは,免責されて借金が帳消しになることがふさわしくないケースについて,免責を認めないとする事情のことです。自己破産の手続き中に破産管財人の業務を妨害するような,問題のある行動をとると,この「免責不許可事由」に当たることがあります。

②居住地の制限

破産手続中に引っ越しをする場合や,1泊以上の旅行や出張の場合も,破産管財人の同意を得る必要があります(運用は裁判所によって異なります。)許可を得ずに勝手に移動した場合は,免責不許可事由に該当する可能性があります。
これに対し,同時廃止の場合は,破産手続の開始と同時に破産手続が廃止されるため,原則として,居住地の制限はありません。引っ越し等を行った場合には新しい住民票等を提出する必要はありますが,裁判所による許可が必要なわけではありません。

③郵便物の転送

加えて,管財事件では,手続きが終了するまでは,破産者宛ての郵便物は一度破産管財人に転送され,中身を開封されてチェックされてから破産者の手元に戻されます。郵便物の転送により,他に債務がないかどうか,他に財産がないかどうかをいうことを確認する手続きとなります。
同時廃止の場合は,このような郵便物の転送もありません。

少額管財であれば手続期間は長くとも3~6か月程度ですが,これらの制限は不便に感じることでしょう。この点も,同時廃止であれば自己破産による制限を最小限に済ませることができます。

しかしながら,同時廃止となるためには,財産がないこと以外にも要件があります。場合によっては同時廃止に適さず,管財事件となることもあります。

同時廃止の要件はどういったものか?

どのようなケースで同時廃止手続となるかは,裁判所によっても異なります。東京地裁の場合,以下の要件に当てはまると,同時廃止になる可能性が高くなります。

①申立ての時点で,持っている現金が33万円未満
②不動産など,20万円以上の財産がない
③免責不許可事由がない
④個人事業主の破産ではない,過去に事業をやっていたことがない

このうち①と②は,財産の有無に関する要件です。③の免責不許可事由については,ギャンブルや浪費を原因とする借金がその典型例です。
最近の印象として,東京地裁の場合,債務総額が500万円を超えるようなケースの場合,浪費傾向が強いといして管財事件になることもあります。

実際は,ギャンブルや浪費などが原因の借金でも,多くのケースで裁判官の裁量により免責が認められています。しかしながら,「この人を免責してよいか」を具体的に調査し,破産者に聞き取りをする必要があるため,ギャンブルや浪費が原因の借金の場合は,管財事件となる可能性が高くなります。

また,④の個人事業主の場合,お店や事業所があったり,在庫や売掛金といった処分可能な財産があったりするケースが多いため,原則として管財事件となり,裁判所による調査が行われます。そのため,基本的には同時廃止にはなりません。

同時廃止になるか管財事件となるかの基準

自己破産手続が同時廃止となるか,管財事件となるかは,裁判所によって判断基準が異なります。以下,東京地方裁判所の振り分け基準についてご説明します。他の地方裁判所に申し立てをする予定がある場合は,目安としてお読みください。

①現金が33万円以上ある場合

この場合は,財産がある人として,管財事件となります。

②20万円以上になる財産がある場合

生活に必要な物品などを除き,20万円以上の価値がある品物がある場合は,管財事件になります。

③現時点で退職金の額が判明しており,退職金の8分の1が20万円以上の場合

②の一例となりますが,退職金も資産となります。現時点で退職をしていない・直近で退職する可能性がない場合,退職金の1/8が資産とされますので,160万円以上の場合には管財事件となります。

④不動産を所有している場合

不動産は,通常は高い資産価値を持つため,不動産を所持している場合は原則として管財事件になります。ただし,不動産に抵当権がついており,その被担保債権額が不動産の処分予定価格の1.5倍以上ある場合は,売っても配当に回るお金が出ないため,同時廃止となる可能性があります。

例えば,売ったら2,000万円になる不動産を持っている場合,通常は管財事件となります。ただし,そこにローンの3,500万円の抵当権がついていた場合,被担保債権額は売却価格の1.75倍なので,このようなケースでは同時廃止事件となる可能性が高まります。

※自己破産では住宅は残せない

自己破産の場合は,不動産は原則として手放すことになります。ローン付きの家を手放したくない場合は,個人再生という手続きをとることにより,持ち家に住み続けながら借金の負担を軽減できる可能性があります。

⑤資産調査の必要性がある場合

①~④に該当する財産を持っていないことが明らかではない場合,破産者が持っている資産を調査したうえで自己破産する流れとなるため,管財事件になります。例えば,自営業者の場合は,事業資金と個人の貯金が一緒になっていることがあるため,多くのケースで資産の調査の必要性があると判断され,管財事件となります。

⑥免責不許可事由がある場合

ギャンブルや浪費,投機行為などが原因の借金の場合,免責不許可事由となり,原則として免責されません。しかしながら,管財事件として破産管財人や裁判官が事情を調査し,「この人は免責が相当である」と判断した場合は,裁量免責という制度により,免責が認められることがあります。そのため,免責不許可事由があり,その程度も軽微ではない場合は,管財事件に振り分けられます。

免責不許可事由に当たると判断され,管財事件にならないために,借金に困って自己破産を考えている場合は,一発逆転を狙ってギャンブルや大きな投資をしたり,財産隠しを疑われるようなことはしたりしないようにしましょう。

⑦7年以内に免責を受けている場合

⑥の一例となりますが,過去に自己破産したことがあり,免責から7年経っていない場合,免責不許可事由に当たるため,管財事件となります。管財事件となり,破産管財人が事情を調査したうえで,裁判所が免責しても良いと判断した場合は,前回の免責から7年経っていなくとも,再び免責が認められる可能性もゼロではないかもしれません。

⑧法人並存型の場合

法人の破産とともに法人の代表者も自己破産をする場合は,原則として,代表者も管財事件となります。

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以上