ギャンブルが理由の借金でも自己破産は可能?

ギャンブルが理由の借金でも自己破産は可能?

ギャンブルが原因の自己破産でも、実務上は多くのケースで免責が受けられています。ギャンブル依存症でも、問題と真剣に向き合う気持ちがあれば、自己破産は可能です。ギャンブルが原因の借金で自己破産をする場合の手続きの流れと注意点、ポイントについてまとめました。裁判官から詳しく事情を聞かれる手続きがあるため、事前に弁護士と相談して、心や書類の準備をして手続きに臨みましょう。

ギャンブルが原因の自己破産、免責は受けられるのか?

ギャンブルによる借金が原因で自己破産した場合でも、裁判所の実務上は多くのケースで免責が受けられ、借金の返済義務が免除になっています。しかし、ギャンブルが原因でない借金の場合よりも、手続きに手間や費用がかかったり、裁判官との面接の際に注意が必要になったりすることがあります。

自己破産において、借金を帳消しにする手続きを「免責」と言います。破産者にとって最も大事な手続きですが、免責には「免責不許可事由」と言って、法律上、免責が認められない事情が定められています。その代表例が、ギャンブルや浪費を原因とする借金です。

競馬、競輪やパチンコ、海外のカジノなどといった典型的な賭博のほかに、FXや仮想通貨、先物取引など投機要素の強い投資や、買い物、オンラインゲームへの多額の課金も、浪費として免責不許可事由に当たることがあります。

もっとも、免責不許可事由といっても、軽重がありますので、一口にギャンブルが原因といっても、毎月お小遣い程度の金額をギャンブルに使っていた場合と月収の半分以上をギャンブルに使っていた場合では事情が異なります。

ギャンブルが原因の借金があり、特にギャンブル依存症の自覚がある方や、周囲にギャンブル依存症だと指摘された方は、一人だけでは依存症を解決することは困難なケースが多いです。借金に関することは弁護士等に依頼をしたとしても、別途ギャンブル依存症を克服するために医療機関にかかる必要がある場合もあります。一人で悩みを抱え込むのをやめるだけでも、問題解決に前向きになれるでしょう。

※用語解説(自己破産の場合)
  • 債務…借金などのお金を支払う義務
  • 債務者…お金を支払う義務を負う人
  • 債権…借金などのお金を受け取る権利
  • 債権者…お金を貸した人など、お金を受け取る権利のある人

免責不許可事由

自己破産の手続きのうち、借金を帳消しにする「免責」が認められない事情を「免責不許可事由」と言います。ギャンブルや浪費が原因の借金のほか、意図的な財産隠しや、財産の破壊、裁判所や破産管財人に対し嘘をついたり非協力的な態度をとったりする、過去7年間以内に免責決定や再生計画認可決定を得ているということも当てはまります。

自己破産は、借金に苦しんでいる人を借金から解放し、人生をやり直すための制度です。しかし、お金を貸した債権者にとっては、貸したお金が返ってこなくなるため、痛みを伴います。また、安易な自己破産が多発すると、借りたお金は返すという基本的な社会のルールが揺らぐことにもなりかねません。そのため、自己破産を繰り返してしまいそうなケースに対しては、免責不許可事由を設けて、免責を制限しています。

しかしながら、免責不許可事由があっても、実際には多くのケースで免責が認められています。

裁量免責について

免責不許可事由に当てはまる場合でも、裁判所は裁量によって免責許可を出すことができます。これを「裁量免責」と言います。ギャンブルが原因の借金でも、実際には多くの人が、この裁量免責により借金の返済を免れています。

破産法252条の1項には、免責不許可事由についての定めがあります。続いて2項には、裁量免責について、以下のように規定されています。

【破産法252条2項】
前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。

つまり、ギャンブルが理由の借金でも、裁判所がその他の事情も考慮して免責が認められる場合がある、ということです。

しかし、ギャンブルが理由の借金の場合は、裁判所側から詳しく事情を聞かれることになります。通常の場合は、管財事件となり、管財人の調査が必要になります。

裁量免責が認められるかの判断に際しては、主に、以下のような事項が検討されます。

  • 債務者の属性
  • 借金をした事情
  • 自己破産に至った事情
  • 免責不許可事由の性質・重大性、債務者の責めに帰すべき事情があるか
  • 債権者がお金を貸すに至った事情や債権管理状況
  • 生活を再建する意欲や努力がみられるか
  • 破産手続きに協力する態度

免責不許可事由がある場合は「管財事件」になる

自己破産には大きく分けて2種類の手続きがありますが、ギャンブルが理由の借金の場合、「管財事件」と言って、管財人の調査により、より詳しく事情を確認する手続きに振り分けられます。

免責不許可事由がなく、換価可能な目ぼしい財産もないケースでは、「同時廃止」と言って、簡易でスピーディーな手続きが可能な場合があります。

一方、ギャンブルが原因で借金した場合は、より詳しく事情を確認する必要があるため、管財事件という取り扱いになります。管財事件では、「破産管財人」という弁護士が裁判所によって選任され、自己破産の申し立てに至った経緯、現在ギャンブルなどをしていないかも含めた生活状況、財産状況などを調査します。同時廃止事件と比較すると、管財費用がかかることになります。少額管財事件であれば、管財費用は20万円程度の裁判所が多いです。(状況や、裁判所によって異なる場合もあります。)

自己破産時に必要なことと注意点

ギャンブルを原因とする破産手続きの際は、免責を得られるように、以下の点に注意する必要があります。

① 事前に弁護士に依頼する

管財事件には「少額管財」と「通常管財」の2種類があり、破産手続き前に弁護士に依頼しておくと、「少額管財」と言って、裁判手続きにかかる費用をおさえることが可能になります。これに対し、弁護士に依頼をしないと、「通常管財」と言う手続きになり、余計に費用がかかってしまいます。
(ただし、事情によって、弁護士に依頼をした場合でも通常管財事件となるケースもあります。)

「弁護士に依頼すると費用がかかるから…」と、自分一人で手続きしようとすると、かえって費用が高額になる可能性がありますので、必ず事前に弁護士に相談しましょう。

※少額管財は、東京地方裁判所がはじめた実務的な運用方法です。全ての地方裁判所で少額管財制度があるとは限りませんので、ご注意ください。また、「少額管財」という名前ではない場合もあります。

② ギャンブルをやめる

自己破産を考えているのであれば、ギャンブルはキッパリやめましょう。破産管財人や裁判所に、ギャンブルがやめられない様子だと判断されると、生活再建をしようとする意欲がないと判断され、免責を受けられなくなります。

ギャンブル依存症は、一人の決意だけで治すのは難しい精神疾患です。できれば家族や専門家などに相談して、アドバイスや支援の協力を得るようにしましょう。行政も対応に乗り出しておりますので、消費者庁のギャンブル依存症のホームページなども参照されることをおすすめします。

消費者庁「ギャンブル等依存症でお困りの皆様へ(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_012/)」

ギャンブルによる借金を隠して自己破産をしたらどうなる?

ギャンブルによる借金であることを隠して手続きを進めること自体が「免責不許可事由」に当たります。これが発覚した場合、「借金の理由がギャンブル」と「ギャンブルであることを隠して手続き」と、二重に免責不許可事由に当てはまることになり、裁判官の心証はとても厳しくなってしまいます。すなわち、免責される可能性が低くなります。最初から、素直に借金理由がギャンブルであることを明かして手続きをしたほうが、免責される可能性は高まります。

また、日ごろギャンブルをしていても、その金額が収入の状況に照らして軽微であれば、そもそも免責不許可事由に該当しないような場合もあります。全ての借金のうち、ギャンブルが原因の借金はごく一部で、大部分は生活のためや病気の治療費のために充てられたという場合も、あまり心配しなくて大丈夫です。

免責調査

破産管財人の免責調査においては反省文や家計簿の提出、裁判所では免責審尋という手続きがあります。免責審尋とは、免責を認めてもよいか判断するために、裁判官が破産者と面談をして様々な質問をすることです。また、申立書類の段階においても、これまでの経緯や家計の状況を具体的にきちんと説明する必要があります。

反省文については、過去の自分自身の行為を振り返り、どういった点を反省しているのか、今後どういったことに気を付けながら生活をしていくのか、ということを記載することが多いです。
また、免責審尋においては、ギャンブルをやめて生活再建をする意欲があることをアピールする必要があります。

破産手続開始決定から免責が下りるまでの間、通常は3~4か月程度ですが、家計簿を継続して作成し、ギャンブルをしていないか、無駄遣いをしていないかを報告することも多いです。節約をせずに自分の好き勝手にお金を使って生活をしているということであれば、反省していないと思われ、免責が下りなくなってしまうこともあるので、注意しましょう。

裁判官や破産管財人の免責調査には協力的な態度をとりましょう。免責調査においては、時に厳しい質問をされることがあります。真剣に人生をやり直してほしいと望むが故の態度ですが、破産管財人や裁判官からの指摘は真摯に受け止め、誠実に反省の態度を示しましょう。裁判所側が誠実な態度であると判断すれば、免責の可能性は高まります。

裁判所に嘘をついたり、免責審尋に理由もなく欠席したりするなど、不誠実な態度をとると、免責されない恐れがあります。

自己破産手続中にギャンブルをしたらどうなる?
自己破産手続中にギャンブルをしたことがわかれば、免責が下りる可能性が下がります。裁判所や破産管財人に「この人は本当に生活を立て直す気があるのだろうか」「反省しているのだろうか」と疑問を持たれてしまいます。自己破産をすると決めて弁護士に依頼をした以降は、ギャンブル自体、絶対に行わないようにしましょう。

免責許可が出なかった場合の対処方法

免責不許可決定があった場合、その決定に対し、即時抗告を行うことができます。即時抗告とは、裁判所の決定に対して不服申し立てをすることで、免責不許可決定から1週間以内に行わなくてはなりません。

即時抗告でも免責が認められなかった場合は、任意整理や個人再生といった他の債務整理の方法を取るしかなくなります。

① 任意整理

債権者に対し、弁護士を通じて私的な交渉をすることで、債務の減額や支払いのリスケジュールなどを和解する手続きです。任意整理では裁判所を通した手続きのような大幅な債務減額は望めませんが、法律上借金の理由による制限を受けることはありませんし、自己破産のように様々な書類作成や審尋などもありません。

比較的借金の金額が少ない場合、親族などからの援助を受けられる場合などに向いています。また、過去の借金の返済状況について調査して、過払い金が発生していたと判明した場合は、大幅な借金の減額が見込めることがあります。

② 個人再生

裁判所を通した手続きで、原則、借金を5分の1程度(最大10分の1程度)に大幅に減額できる手続きです。自己破産との違いは、借金の理由を問われないことと、減額後の借金は支払っていかなくてはならないことです。また、財産を手放さなくて済むことも、大きなメリットです。

将来にわたって継続した収入がある人、借金の総額が5,000万円を超えていない人が手続きすることができます。

どの手段を取るにしても、弁護士に依頼して、協力して手続きを行うことが大切です。また、弁護士に依頼して相談することで、ご自身の状況をより客観的に見ることができるようになります。債務整理を得意としていて、ギャンブルが原因の借金の事例にも対応例がある弁護士事務所を選ばれることをおすすめします。