自己破産で免責不許可事由となるケースとは

自己破産で免責不許可事由となるケースとは

免責不許可事由についてわかりやすく解説します。免責不許可事由とは,自己破産の際,借金を帳消しにする手続きである免責が下りない事情のことを指します。免責不許可事由に該当していても,裁判官が裁量により免責の許可を出すことは可能です。注意すべきポイントをまとめました。

免責不許可事由とは

免責不許可事由とは,自己破産の際,借金が帳消しになる手続きである「免責」が下りない事情のことです。

自己破産は,裁判所によって合法的に借金を帳消しにできる強力な手続きです。その代わり,いつでも,だれでも,どんな状況でも借金が無くなるということではなく,場合によっては免責が受けられないことがあります。破産法に列挙された「こうしたケースでは免責は認められない」という事例のことを,免責不許可事由と言います。

代表的な免責不許可事由としては,ギャンブルや浪費が原因となっている借金があります。本来,自己破産は,やむを得ない事情で借入が膨らんでしまった人が経済的にやり直すチャンスをもらうための手続きであるため,ギャンブルや浪費での借入は免責に制限が設けられています。

しかし,免責不許可事由に当てはまるケースであっても,裁判官が詳しく事情を聴き,「この人は反省をしており,免責して人生をやり直すことができる」と判断すれば,免責許可が下ります。これを裁量免責と言います。

ギャンブルや浪費が原因の借金以外にも,免責不許可事由となるケースがありますので,ご自身が当てはまるかどうか,チェックされることをオススメします。また,自己破産手続中に免責不許可事由に当たるような行為をしないように注意しましょう。

※用語解説(自己破産の場合)

  • 債務…借金などのお金を支払う義務
  • 債務者…お金を支払う義務を負う人
  • 債権…借金などの返済のお金を受け取る権利
  • 債権者…お金を貸した人など,お金を受け取る権利のある人

免責不許可事由になる11のケース
破産法252条1項には,免責不許可事由として11の事由が列挙されています。

① 財産隠しや損壊(不当な破産財団価値減少行為)

破産法第252条第1項
債権者を害する目的で,破産財団に属し,又は属すべき財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。

自己破産の手続きをする前や,手続き中に財産を隠す,壊す,誰かに譲るなどの行為をすると,免責不許可事由に当てはまります。

自己破産手続きの際は,まず,一定の価値以上(一般的には20万円以上)の価値のある財産は,裁判所・破産管財人によって換価され,債権者に分配されます。財産を隠したり,名義変更したり,破棄したりすることで,こうした換価ができなくなると,債権者が受け取れる配当が減ってしまうため,免責不許可事由となっています。

例えば,裁判所・破産管財人によって換価されたくなくて,100万円のダイヤモンドの指輪を友人に5万円で売った,自分名義の車を取られたくなかったので親戚へ名義変更をした,自暴自棄になって50万円のガラスの工芸品を割った等の場合がこれに該当します。

② 自己破産すること前提で債務を負う行為(不当な債務負担行為)

破産法第252条1項
二 破産手続の開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。

破産するつもりなのに,わざと借金をしたり,「クレジットカードのショッピング枠の現金化」と言って,クレジットカードで商品を買って換金する行為も免責不許可事由となります。

③ 特定の債権者にだけ返済する行為(不当な偏頗(へんぱ)行為)

破産法第252条1項
三 特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって,債務者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。

複数いる債権者のうち,特定の債権者にだけ優先して借金を弁済したり,他の債権者に損害を与えたりするために,一部の債権者にだけ返済することを「偏頗(へんぱ)弁済」と言います。例えば,銀行と消費者金融と恩人に借金をしていた場合,恩人に迷惑をかけたくないからと,恩人にだけ借金を返済してしまうと,偏頗弁済となり,事情によっては管財人が返済金を回収するケースもあります。

④ 浪費または賭博その他の射幸行為

破産法第252条1項
四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと。

収入に見合わないほどの高額のギャンブル,FXにのめり込んでしまったり,浪費をしてしまって,それが借金の原因になっている場合,免責不許可事由に該当します。もっとも,破産をする方の場合,多かれ少なかれ浪費行為があることが多いですが,その内容や金額は免責不許可事由性の軽重に影響します。

浪費や賭博が理由の借金の場合では,原因となる行為を止め,裁判官に誠実な態度で生活を再建する意欲や努力を示し,他に免責不許可事由がなければ,裁量免責となるケースが多いです。
家計表による収支状況の改善を継続して報告したり,これまでの自身の生活態度を見直すために反省文を提出したりします。

⑤ 詐術による信用取引

破産法第252条1項
五 破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。

破産手続きの一年前から,いずれ借金を支払えなくなるとわかっているのに,自分は返済できると債権者をだまして,お金を借りていた場合は,免責不許可事由に当てはまります。例えば,金融機関やカード会社の融資審査の際に,年収や他での借入内容をごまかして借り入れを行うなどした場合です。

⑥ 帳簿隠し(業務帳簿隠滅等の行為)

破産法第252条1項
六 業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件を隠滅し,偽造し,又は変造したこと。

自営業者やフリーランスの人,勤め人であっても副業をしていた場合,確定申告書等の業務や財産に関する書類を偽造したり,隠したりすると,免責不許可事由に当てはまります。もっとも,単純な記入忘れや計算ミスなど,故意に改ざんしたわけでなければ,免責不許可事由とはなりません。

⑦ 虚偽の債権者名簿提出行為

破産法第252条1項
七 虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。

自己破産手続の際,債権者全てを一覧表にして裁判所に提出しなくてはなりません。借金があるのにわざと債権者名簿に書かなかったり,虚偽の内容を書いたりした場合は,免責不許可事由になります。

例えば,銀行や消費者金融など業者からの借金は自己破産で帳消しにしたいけれど,親族や恩人からの借金は支払いたい,個人からの借金なら裁判所にもバレにくいだろう,などと思って個人の名を書かないパターンです。発覚すれば借金が帳消しにならなくなる恐れがありますので,債権者一覧表には嘘偽りなく記入しましょう。

⑧ 調査協力義務違反行為

破産法第252条1項
八 破産手続において裁判所が行う調査において,説明を拒み,又は虚偽の説明をしたこと。

裁判官や破産管財人などの裁判所が行う調査に対し,説明を拒んだり,嘘の説明をしたりした場合は,調査協力義務違反行為として免責不許可事由になります。

裁判官は「この人に免責を許可してもいいか」を決定する権限を持っていますし,破産管財人は調査結果を裁判官へ報告して免責に関する意見を提出しますので,信頼してもらえるように率直な態度で接し,嘘のないよう心掛けましょう。

借金の理由によっては,後ろ暗く感じ,嘘をついたりごまかしたりしたくなることもあるでしょう。しかし,そのような場合こそ,素直に包み隠さず打ち明けることがとても大切です。

⑨ 管財業務妨害行為

破産法第252条1項
九 不正の手段により,破産管財人,保全管理人,破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。

破産管財人とは,免責不許可事由の調査や財産換価があるケースにおいて,財産の管理・換価・債権者への分配などを行う役割の人です。また,破産者が借金をするに至った経緯などを調べるために,面談を行います。自己破産手続きのうち,破産管財人がつくケースを「管財事件」と言います。

破産管財人は裁判所が選んだ弁護士です。したがって,調査を妨害するような行為をすると,免責不許可事由にあたります。

⑩ 7年以内の免責など

破産法第252条1項
十 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において,それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。

イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)第二百三十九条第一項に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第二百三十五条第一項(同法第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日

過去7年以内に,自己破産をして免責許可決定が確定している場合,個人再生をして再生計画案認可決定が確定している場合に問題になります。

安易に自己破産を繰り返さないようにと儲けられたルールですが,7年以内の再度の自己破産であっても,裁判官が事情を調査して,「この人は再度の免責を受けてもいい」と判断すれば,自己破産による免責が認められますが,原則は難しいと考えてください。

例えば,事業に失敗して多額の借金を抱えて1度目の自己破産を行い,その後は派遣社員として働いていたところ,4年後に病気になって働けなくなり,生活費のために借金を作った,といったケースであれば,7年以内の免責も認められなくはないかもしれません。
しかし,ギャンブルで1度目の自己破産をして,7年以内にまたギャンブルで借金を作ってしまった,といったケースでは,裁判官の心証は厳しくなります。

 なお,7年以上前に自己破産や個人再生などの手続きをしていた場合,免責不許可事由には該当しませんが,やはり2度目の手続きとなれば,より厳しく判断され,管財事件となることが多いです。

⑪ 破産法上の義務違反行為

破産法第252条1項
十一 第四十条第一項第一号,第四十一条又は第二百五十条第二項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと。

1~10のケース以外にも,破産手続きにおいて,破産者が非協力的な態度をとった場合は,免責不許可事由になることがあります。

非免責債権とは

非免責債権とは,通常の借金とは違い,自己破産手続きをしても免除されない債務のことを言います。典型例としては,税金や社会保険料などの租税等の請求権があります。他には,破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権や,離婚した場合の子どもの養育費などがあります。

税金を滞納しても,自己破産で免除にはなりませんので,早めに役所に相談しましょう。一定の条件を満たすと,納税の猶予や分納などの手続きが取れるかもしれません。

免責不許可事由の場合は裁量免責に

免責不許可事由があっても,裁判官・管財人が事情を詳しく調査して,「この人ならば免責により生活を再建できる」と判断した場合は,裁量免責と言って,裁判官の判断で免責を許可することができます。

例えば,ギャンブルや浪費が原因の借金をしていても,破産者がギャンブルをやめて真剣に人生をやり直す意欲があり,それを裁判官に認めてもらうことができれば,多くの場合で免責が認められています。

裁量免責も難しい場合

例えば,ギャンブルが原因で自己破産をして,7年経たずにまたギャンブルで借金を作ってしまった場合など,免責が難しいと考えられるケースでは,他の債務整理により借金負担を軽減することができます。

比較的借金額が少ない場合は,「任意整理」と言って,弁護士が私的な交渉で債権者と利息のカットなどを話し合う手続きがあります。また,借金の金額が5,000万円以下であれば,「個人再生」と言って,借金を5分の1程度,最大10分の1程度に大幅に減額できる手続きがあります。

免責不許可事由があっても,何らかの形で借金負担を軽くすることは可能です。一人で悩まずに専門家に相談されることをお勧めします。