自己破産手続きの復権について 制限はいつ解除される?

自己破産手続きの復権について 制限はいつ解除される?

自己破産による職業の資格制限が無くなる仕組みである,「復権」についてわかりやすく解説します。復権には「当然復権」と「申立てによる復権」の2種類があります。自己破産による資格制限が解除される典型例は,裁判所による免責で,免責許可決定が確定すれば自動的に復権します。このパターンを「当然復権」と言いますが,復権にはこれ以外の方法もあります。復権の効果や,復権までにかかる期間,復権後の信用についても触れます。

自己破産における復権とは

自己破産手続きにおける復権とは,自己破産をすることで破産者にかかっていた制限が消滅し,本来の法的地位が回復することを言います。復権には2種類あり,一定の要件を満たすと自動的に復権できる「当然復権」と,裁判所で手続きする「申立てによる復権」があります。

自己破産をすると,破産手続きをした本人は「破産者」となり,法律上,いくつかの制限を受けます。

  • 引越しや出張等が制限される(居住制限)
  • 郵便物が破産管財人に転送される(通信の秘密の制限)
  • 一部の職業に就くことができなくなる(資格制限)

こうしたルールのうち,居住制限や通信の秘密の制限については,破産手続きが終われば自動的に終了します。しかしながら,職業の資格制限だけは,手続きが終わっても当然に終了するわけではなく,「復権」と言う制度により制度が解除されます。

資格が制限される職業としては,例えば,以下の仕事があります。

  • 警備員
  • 生命保険の外交員(生命保険募集人)
  • 宅地建物取引主任者
  • 弁護士や公認会計士などの士業

他にもありますので,ご自身の職業が,制限職種に当たるかどうかは,検索して確認してみてください。

これらの職業は,自己破産手続き中は,仕事に就くことができません。しかし,復権すれば,破産者ではなくなります。また,破産者になっても既にに持っている資格がはく奪されるわけではないので,復権すれば元通り資格を使った仕事をすることができます。

※用語解説(自己破産の場合)

  • 債務…借金などのお金を支払う義務
  • 債務者…お金を支払う義務を負う人
  • 債権…借金などのお金を受け取る権利
  • 債権者…お金を貸した人など,お金を受け取る権利のある人

復権の種類

復権には,一定の条件が満たされることにより当然に復権できる「当然復権」と,破産者が裁判所に復権を申し立てる「申立てによる復権」の二つがあります。

復権の代表的なケースが「免責許可決定の確定」です。免責とは,借金などの債務をゼロにする重要な手続きで,自己破産手続きは実際には免責を受けるために行うとも言えます。つまり,自己破産手続きに成功し,免責されれば,資格制限はなくなるのです。

しかしながら,免責以外でも復権を認められる場合があります。以下に詳しく見ていきましょう。

当然復権

免責を典型例として,破産法に定められた事由が発生した場合,特に手続きをしなくても自動的に復権が認められます。これを当然復権と言います。当然復権できる事由には,以下の4つのケースがあります(破産法255条1項)。

(1)免責許可決定が確定した場合

前述の通り,借金を帳消しにする手続きである「免責」の許可が確定すれば,当然に資格制限は解除され,復権できます。大半の破産者はこの方法で復権しています。

しかしながら,以下のような場合では,免責が不許可になる可能性があります。

  1. ギャンブルや浪費の原因が著しい借金の場合
  2. 財産隠しや,特定の債権者にだけ利益があるような支払いをした
  3. 裁判所への説明を拒んだり,うその説明をしたりした 等

こうしたケースでは,裁判所によって免責が認められず,借金が帳消しにならない場合があります。免責が不許可とならないよう,自己破産手続きはルールを守り,誠実に,嘘が無いように行いましょう。

※①のギャンブルや浪費による借金の場合は,裁判所の裁量により,実際には多くのケースで免責が認められています。心当たりがある方は,法律の専門家に相談してください。

(2)破産手続同意廃止決定が確定した場合

破産者が破産手続きを廃止することについて,債権者全員の同意があれば,破産手続が終了するとともに復権が認められます。

お金を受け取る権利のある債権者が全員,配当がないことに同意してくれるなら,破産手続きを廃止しても問題がないからです。

しかしながら,実際には,配当無しで破産手続きを廃止することに同意する債権者は少ないので,このケースで復権する破産者は多くはないでしょう。

(3)再生計画認可の決定が確定した場合

自己破産手続で免責が認められなかったケースでも,個人再生手続きを行い,法律に従って減額された借金を返済する計画を裁判所に認めてもらえた場合は,債務者は復権することができます。

(4)破産者が,破産手続開始決定後,詐欺破産罪の有罪の確定判決を受けることなく10年を経過した場合

自己破産を裁判所に申立て,破産開始手続開始決定がされてから10年経過した場合は,詐欺破産罪の有罪判決を受けていない限り,復権することができます。

詐欺破産罪とは,債権者を害する目的をもって,債務者が自分の財産を隠匿したり破壊したりする犯罪です。意図的にこうした犯罪を行わなければ,免責が認められなくとも,自己破産手続きから10年経てば復権できます。

申し立てによる復権

当然復権が認められないケースでも,破産者が弁済そのほかの方法により,債権者に対する債務の全部についてその責任を免れたときは,破産者が裁判所に申し立てることにより,復権が認められる場合があります(破産法256条1項)。「裁判による復権」とも言います。

申立てによる復権が認められるためには,以下の2つの条件を満たす必要があります。

①全ての債務を弁済すること

申立てによる復権をするためには,前提として,全ての債権者について,債務を全て返済しなくてはなりません。

借金が払えないから破産手続きをしたのですから,手続き開始後に全額弁済できるようになるケースは稀ですが,例えば,以下のようなこともあり得ます。

  • 財力がある被相続人が亡くなって遺産を相続した
  • 親戚などの援助により資金調達ができた
  • 副業でやっていた事業が急に大成功した

こうした事情により,破産手続開始後に全ての債務を弁済できるケースもあり得ます。このような場合には,弁済ができている以上,職業資格を制限する必要性もありませんから,復権できる可能性があります。

②裁判所に復権の申し立てをすること

全ての債務の弁済をしても,それだけでは当然に復権できるわけではありません。裁判所に対し,破産者が復権したいという意思を伝えるため,申立てを行う必要があります。

復権するとどうなるのか?

復権すると,法律上「破産者」ではなくなり,職業資格の制限がなくなります。制限なく,持っている資格を使って仕事ができますし,新たに資格を取得して働くのも自由です。

ただし,法律上破産者ではなくなると言っても,信用情報機関の記録に,自己破産の情報が5~10年残るので,その間は新たな借金やクレジットカードの利用が難しくなります。

復権の効果

復権の効果は「人の資格に関する法令の定めるところによる」(破産法255条)とされています。要するに,例えば弁護士ならば弁護士法,警備員なら警備業法に定められている通りの効果が発生します。

典型的なケースとして,身近な職業である警備員について見てみましょう。警備業法の3条および14条には,警備員となってはならないものについて定めがあります。

【警備業法3条】

「次の各号のいずれかに該当する者は,警備業を営んではならない。

一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」

【警備業法14条】

「十八歳未満の者又は第三条第一号から第七号までのいずれかに該当する者は,警備員となってはならない。

2 警備業者は,前項に規定する者を警備業務に従事させてはならない。」

「警備業法 | e-Gov法令検索(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000117)」より

つまり,破産手続開始決定以降,復権するまでは警備員の仕事はできませんが,復権すれば再び警備員になれると定められているのです。

職業によっては,自己破産の職業制限につき,警備員とは違うルールが定められていることがあります。例えば,保険外交員の仕事をしていて,自己破産手続きをした場合,既にしてある登録が100%取り消しになるわけではありません。登録取り消しなどの処分を受けることがある,という任意的なルールになっています。

他にも,会社の取締役の場合は,自己破産手続を開始すると,法律により会社との委任契約が終了します。しかしながら,再び株主総会で取締役に選任されれば,もう一度取締役の仕事に就くことも可能となっています。

このように,個別法によってルールが違うこともありますので,不明な場合は法律家に問い合わせをされることをお勧めします。

復権までの期間

自己破産手続開始後,大きなトラブルなく免責の許可が下りた場合,免責許可の確定はその後1か月程度かかります。申立てから免責許可が下りるまで,おおむね3~4か月程度のことが多いと思われます。しかしながら,手続きの過程で問題があって免責の許可が出なかった場合は,復権まで最長10年かかってしまいます。

手続きの過程で問題があるケースとは,多くの場合,裁判所の指示に従わなかったり,嘘をついたり,財産を隠したりといった,不誠実な態度をとったことが原因となります。そのようなことがないよう,自己破産手続きの際は正直に,誠実に手続きを行うことを心がけてください。

問題がない場合は,自己破産手続開始から長くとも半年程度で復権することがほとんどです。

復権後の信用について

復権して職業制限が無くなっても,お金の貸し借りに関する信用は復権によっては回復しません。また,官報に掲載された内容は,誰でも見ようと思えば見ることができるため,自己破産をしたという事実は消せません。また,仕事の内容によっては,復権しても仕事に影響が出るケースがあり得ます。

【お金の貸し借りの信用】

復権しても,信用情報機関に残った自己破産の記録がなくなるわけではありません。

信用情報機関とは,個人のお金の貸し借りの情報を記録しておく機関のことで,金融機関や貸金業者はこの記録を参考に融資できるかどうかを判断します。そのため,自己破産後は5~10年経過して記録が消えるまで,新たな借金やクレジットカードの利用は難しくなります。

この記録は,自己破産手続きで免責が認められても,削除を依頼することはできません。

時間経過により,記録が消えた後は,再びクレジットカードの利用やローンができるようになります。日本国内にある信用情報機関は,「CIC」「JICC」「全国銀行個人信用情報センター(KSC)」の3つです。5~10年の期間経過後,ご自身の記録が残っているかどうかは,これらの機関に情報開示請求を行うことで確認することができます。

【仕事に関する信用】

制限職種の仕事をしていた場合,例えば会社の取締役であれば,一度強制的に解任させられます。その後,法律上は再任が可能でも,以前の仕事上の信用を取り戻すのには時間がかかるかもしれません。

自己破産をしたからと言って,それを理由に,会社が解雇することが基本的にはできません。仮に解雇された場合は,不当解雇に該当するケースもあります。(ただし,資格の内容や職業の内容によっては,債務不履行として普通解雇になることもゼロではありません。)

職場によっては,事前に相談することにより,資格制限のない別の部署などに配置転換してもらうことも可能です。しかしながら,配置転換ができない仕事の場合であったり,個人経営の資格職であったりする場合などは,仕事に影響が出ると考えられます。

制限職種に就いていて,かつ,自己破産手続により仕事に影響が避けられない場合は,個人再生手続など,自己破産以外の選択肢を検討する必要があります。このような場合は,法律の専門家とよく相談されることをお勧めします。

職業制限があるのは自己破産手続の間だけ

破産者になると職業が制限されてしまうと言うと,恐ろしいイメージがありますが,あくまでも裁判所で手続きをしている3か月~6か月ほどの期間のみです。また,制限職種であっても,仕事を続けながら自己破産手続きをすることができる場合もあります。

免責許可決定を受けて復権するためには,裁判所での手続きの際,誠実に書類の作成や受け答えをすることが大切です。免責不許可となり,復権できなくなることがないよう,自己破産手続には真摯な態度で臨みましょう。