自己破産とは

自己破産とは

自己破産について、わかりやすく解説します。自己破産は裁判所に対して申立てを行う借金問題の解決方法です。どんな高額の借金でも、一定の要件の下に自己破産手続きにより帳消しにできますが、その代わり、一定の金額以上の価値のある財産は処分されてしまいます。ただし、自己破産は人生をやり直すための手続きなので、人権を制約するようなペナルティが課せられることはありません。

自己破産とは

自己破産とは、裁判所に対して申立てを行う借金問題の解決方法のひとつで、借金をすべて帳消しにできる手続きのことです。負担している借金の金額が大きく、収入がない人や、現在の収入ではとても払いきれないという人が利用できます。

自己破産は他の債務整理の手続きで借金問題が解決できない人のための最終手段とされ、借金帳消しという強力なメリットがある代わりに、一定額以上の財産を失うという仕組みになっています。

自己破産の手続きには、以下の2つが含まれます。

  1. 現在持っている財産を処分して換価し、債権者に配当する「破産」の手続き。
  2. 借金を帳消しにしてもらう「免責」の手続き。

この「免責」という手続きに際しては、借金をした原因や理由が問われます。ギャンブルや浪費など一定の理由による借金の場合、免責が認められないことがあります。しかし、よほど悪質な場合を除いて、ほとんどのケースでは、裁判所の手続きの中で反省し真摯に人生をやり直す姿勢を示すことで免責を得られる場合は多いです。

自己破産したら社会人としておしまい?

自己破産をすると、ブラックリストに載る、手続き期間中は一定の職業に就けないなどのデメリットが生じます。借金で困っている人のなかには、自己破産することを社会人失格だととらえ、なかなか自己破産に踏み切れない人もいます。

しかし、自己破産はそもそも、借金で首が回らなくなった人が、もう一度明るい人生を歩むために設けられた制度です。自己破産のせいで会社をクビになったり、選挙権がなくなったり、公的年金が受け取れなくなったりすることはありません。そうした噂は誤解です。

自己破産を過度に恐れる人がいるのは、失敗を許さない日本人的な価値観もあるのかもしれません。しかし、2018年、2019年には日本でも年間7万件を超える自己破産の申立てがありました。新型コロナウイルスによる不況を受けて、今後さらに増加することが予想されます。

自己破産によってもう一度人生をやり直し、健全な人生を送れるようになった人はたくさんいます。もちろん、そうなってしまった原因を考え反省することは大切ですが、自己破産を過度に恥ずかしく思う必要も、罪悪感や後ろめたさを覚える必要もありません。借金苦で思いつめ、心を病んで不幸な選択をする前に、一人で思い悩まずに専門家等に相談しましょう。

また、収入やご自身の状況によっては、自己破産をせずとも他の債務整理で解決できるケースもあります。様々な選択肢を検討するという意味でも、早めに専門家に相談されたほうが良いでしょう。

自己破産をするとどうなるのか メリット・デメリットまとめ

【自己破産の5つのメリット】

メリット(1)借金がすべてなくなる

銀行や消費者金融からの借金はもちろん、クレジットカードのキャッシング、住宅ローン、車のローン、友人・知人からの借金など、借りたお金は全て返さなくてよくなります。

どれほど高額の借金であったとしても、免責許可決定が下りれば、帳消しになります。

他の債務整理では、借金は減額されるものの、基本的には返済を続けなければなりません。しかし、自己破産ならばすべての借金から完全に解放されるので、借金に苦しみ続けてきた人にとっては非常にメリットの大きい手続きです。

メリット(2)収入がなくとも手続きできる

自己破産は、債務整理の手続きの中で唯一、無収入でも手続きが可能です。病気や怪我、そのほかの事情により、働けなくなってしまった人であっても借金問題を解決できます。年金生活者や生活保護受給者であっても問題なく手続きできます。

これに対し、他の債務整理では、3~5年ほどの間に減額された借金を支払いきれる程度の収入が必要になります。アルバイトやパートでもまとまった収入があれば可能ですが、そもそも収入がない場合は、自己破産以外の手段はありません。

メリット(3)債権者からの取り立てがなくなる

自己破産手続きを弁護士に依頼すると、弁護士は各債権者に受任通知を発送します。その通知を受けた債権者は、以後、借金をしている人に直接の取り立てや連絡ができなくなります。借金を滞納し、督促に悩まされている人には強力なメリットとなります。

メリット(4)強制執行を停止できる

借金を滞納していると、債権者から給料等の差し押さえを受けることがあります。しかし、自己破産の手続きをし、破産手続開始決定が出れば、強制執行の中止を求めることができます。管財手続きにおいては、その後、強制執行の取消しにより、給料の差押えを止め、全額を受け取ることができます(ただし、同時廃止手続きにおいては、免責許可決定の確定によってはじめて強制執行を取り消すことができます)。

メリット(5)生活必需品など一定の財産は手元に残せる

自己破産手続きをすると、一定額以上の価値のある財産は処分され換価されます。しかし、生活に必要な家具や家電製品、衣類、雑貨などはそのまま手元に残ります。不動産や車などの大きな財産や、高価な品物などを持っていない人にとっては、生活スタイルを大きく変えることなく自己破産をすることができます。

【自己破産の7つのデメリット】

デメリット(1)一定額以上の財産が没収される

原則として、20万円を越える価値のある財産は没収されてしまいます。住宅や土地などの不動産、車や証券、預貯金、美術品や貴金属、保険解約返戻金などは、20万円を越えるものについては手放さなくてはなりません。

 一方、自由財産拡張申立てにより、99万円以外の財産は手元に残ることができる場合もあります。これについては、申立人の生活状況、経済状況、財産状況によって、裁判所の判断が異なりますので、必ず認められるわけではないので、注意が必要です。

デメリット(2)ローン返済中の住宅や車などは引きあげられてしまう

自己破産手続きは、全ての借金を対象に、手続きを進める必要がありますので、ローン返済中だった住宅や車についても、除外することはできません。したがって、自己破産手続を選択した場合、これらの債権者にも弁護士が受任通知を発送することになり、所有権留保がついている車は引き上げとなり、住宅についても任意売却等の手続きを進めていく必要があります。

したがって、ローン返済中の住宅や車は手放さざるを得なくなります。

デメリット(3)手続き後約7年間、新たな借金が難しくなる(ブラックリスト入り)

自己破産をすると、信用情報機関の記録に事故情報として一定期間記載されてしまいます。(俗にいうブラックリスト入り)

信用情報機関とは、個人のお金の貸し借りの情報を記録・保管しておく機関のことで、貸金業者や銀行などの金融機関が加盟しています。金融機関は新たな融資を行う際、信用情報機関の記録を閲覧して、きちんとお金を返してくれる人物か判断します。

信用情報機関の記録に滞納や自己破産手続などの情報が載ってしまうと、融資の審査が非常に通りにくくなってしまいます。借金やローンのほか、クレジットカードの使用や携帯電話の分割払いによる購入もできなくなります。

なお、自己破産以外の手続きでも、債務整理をするとブラックリスト入りしてしまいますが、それぞれブラックリストに記載される期間が異なります。

デメリット(4)官報に個人情報が記載される

自己破産をすると、官報という政府の広報誌に自己破産手続きをしたものということで名前と住所が載ってしまいます。ただし、官報をチェックしているのは、公共団体や銀行などごく一部の職業の人間だけですので、このことから勤め先やご近所に自己破産手続きをしたことが知れ渡ることはほとんどありません。

デメリット(5)手続き期間中は資格制限が発生する

自己破産手続きの開始決定から、免責が許可されるまでの約3~4か月の間は「破産者」となり、弁護士や税理士などの士業、警備員、生命保険の募集人など、一定の職業に就くことができません。

免責決定を受けることにより復権し、「破産者」ではなくなりますので、上記の資格制限はなくなり、また同じ仕事に就くことができます。

デメリット(6)借金に保証人がいる場合は保証人に迷惑がかかる

自己破産手続きにより借金をした本人は借金から解放されますが、借金に保証人がいた場合、債権者からの請求は保証人に向かうことになります。

借金に保証人を付けるのは、本人が返せなくなった場合に備えてのことなので、債権者としては当然の対応です。保証人は借金を支払うか、保証人も自己破産などの債務整理手続きを取るかしかなくなります。

そのため、自己破産手続を行う際は、必ず事前に保証人にも連絡し、相談しましょう。

デメリット(7)税金や罰金などは免責されない

自己破産手続きをしても、滞納している税金、社会保険料、罰金など、国や地方公共団体に納めるお金に関しては、消滅しないため注意が必要です。また、交通事故などの不法行為(一定の条件有り)による損害賠償、離婚した場合の養育費なども非免責債権となり、支払う必要があります。

自己破産の種類

自己破産には、以下の二つの種類があります。

「管財事件」…破産管財人がついて、破産者の借り入れ状況・借金の理由などを調査し、免責に関する意見を出します。破産管財人の意見を参考に、裁判官が免責を許可するかどうかを決定します。

 管財事件は、財産が一定程度残っている人向けの制度です。また、借金の理由がギャンブルなど、免責不許可事由にあたる場合も、借金をするに至った事情を詳しく調査するためにこの手続きをとることがあります。

 管財事件になると、裁判所に納める予納金(少額管財費用20万円~)も高額になり、また、手続きにも時間がかかります。

「同時廃止」…財産がほとんど残っておらず、また、免責不許可事由がない場合は、破産管財人を選任せず、裁判所が簡易の手続きにより速やかに免責を認めます。

同時廃止の場合は比較的スピーディーに手続きが進み、また、管財費用の支出がないため負担が少なくて済みます。

自己破産はどういう場合にするべき?

借金の額が返済不可能な時

自己破産はあくまで借金問題解決の最終手段です。安定した収入があり、借金の額が、減額すれば数年で支払いきれる程度の額だった場合は、任意整理など、デメリットの少ない他の債務整理方法を検討したほうが良いでしょう。

高価な財産を持っていない場合

不動産や高価な美術品など、まとまったお金に換えられる財産がある場合は、まずそちらを売却するなどしてお金に換え、借金の返済に充てたほうが良いでしょう。自己破産をすれば、どのみち高価な財産は処分され換価されてしまいます。

逆に言えば、持ち物は家財道具などの生活用品程度で、他に大きな財産を持っていなかった場合、生活のスタイルをそれほど大きく変えずに自己破産をすることができます。

給料を差し押さえられている場合

借金の返済を遅滞して、債権者に給料の差し押さえを受けてしまっている場合は、任意整理では差し押さえを停止することができません。自己破産や個人再生のように、裁判所を通した債務整理手続きを行うことで、強制執行を止めることができます。

自己破産できない場合とは

弁護士や税理士、生命保険の募集人、警備員など、自己破産手続中に就くことができない仕事についているとき

自己破産手続き中に就くことができない仕事をしていた場合、自己破産をする際は一度仕事を辞めるか、もしくは、勤務先に事情を話して手続き期間は当該資格を利用しない業務に変更してもらうなどの必要があります。免責許可決定が下りれば、法律上、再びこれらの仕事に就くことは問題ありません。しかし、信用が大切な仕事ですので、その後の仕事に影響がゼロとは言い切れないかもしれません。

そのため、これらの仕事の人が自己破産を選ぶ場合は、特に慎重になる必要があります。仕事をやめることができない場合は、個人再生など、他の手続きを選ぶことになります。

借金の理由がギャンブルや浪費など、免責不許可事由に当てはまるとき

自己破産の場合、法律上、免責不許可事由(破産法253条)というものが定められています。一番多いものとしては、ギャンブルや浪費、FX、株式投資などのために借入をしたケースが挙げられます。「免責不許可事由」がある場合、免責が認められないことがあります。

しかし、免責不許可事由に該当する事情があっても、その該当性の軽重、申立人の経済状況や反省の度合いなど、裁判所が総合的に判断をした上で、裁量免責となるケースがほとんどです。

そのため、免責不許可事由であっても、諦めずに手続きをしてみること、しっかりと反省の態度を示すことが大切です。

自己破産の手続きと流れ

(1)弁護士に依頼する

裁判所を通した手続きの場合、数多くの書類が必要になるなど、複雑で手間もかかります。そのため、自己破産は法律の専門家に依頼することになります。弁護士に依頼することで、受任通知が各債権者に送付され、受け取った債権者は以後、直接の連絡や督促をすることができなくなります。

(2)債権調査及び必要書類の作成

債権者から取り寄せた取引履歴をもとに、正確な債権額の確定を行い、また、自己破産手続きの申立てに必要な書類の作成を行います。

(3)自己破産および免責の申立手続

裁判所に自己破産手続の申立てを行います。現在では、「破産手続」と「免責手続」の二つの申立てを同時に行います。

(4)破産審尋

裁判官が、直接本人に対し、借金の理由、返済できなくなった事情および財産状況などについて質問します。

※書面審査のみで、破産審尋が行われない場合もあります。

(5)破産手続開始の決定・破産管財人の選任

破産手続開始決定により、「破産者」となり、職業の資格制限が発生します。

また、管財事件の場合、破産管財人が選任され、面談等により事情の確認がなされます。管財事件の場合には開始決定後は自分で財産の処分ができなくなるほか、引っ越し等の制約や郵便物の転送手続きなどの制約が生じます。

(6)債権者集会・免責審尋

免責審尋とは、裁判官が、直接本人に対し、二度と同じ過ちを繰り返さない、免責しても問題ない人物かどうかを質問して確認する手続きです(免責審尋がない場合もあります)。

管財事件においては、債権者集会と免責審尋は同時に行われます。「債権者集会」という名称ではあるものの、債権者が通常の借入先(消費者金融やクレジットカード会社等)の場合、債権者集会に債権者が出頭することはほとんどありません。

(7)免責許可の決定・官報への掲載・免責許可決定の確定

免責許可決定の通知が送られてきます。その後、官報に住所や氏名などが掲載され、特に異議がなければ免責許可決定が確定(免責許可決定から約1か月)し、これにより借金から解放されます。