共益債権とは 個人再生で減額されない債権とその理由
共益債権についてポイントをまとめました。個人再生における共益債権とは,再生債権に先立って,再生手続によらないで随時返済を受けることができる債権のことを指します。
共益債権の取り扱いや,個人再生手続に関係する債権の種類,債権を「減額対象になる債権」と「減額されない債権」に分ける理由,共益債権と非減免債権との違いなどについて概説します。
目次
共益債権とは
共益債権とは,個人再生による減額の対象とはならない債権のことです。共益債権は全額支払わなくてはなりませんが,他の債権者に優先して支払っても「偏頗(へんぱ)弁済」には当たらず,民事再生法のルール違反になりません。
共益債権の代表例としては,以下が挙げられます。
- 再生手続に必要な費用の請求権
- 再生手続開始決定後の水道光熱費や家賃など,生活や財産の維持に欠かせない費用
- 業務の継続に必要な費用
個人再生手続においては,原則としてすべての借金や債務が減額対象となります。個人再生を裁判所に申立てて,再生手続開始後は,全ての返済や支払いが禁止され,認可決定後に減額された金額を支払っていくことになります。
しかし,家賃や水道光熱費といった生活に必要不可欠な支払いまで止めてしまうと,家を出ていくよう要求されたり,水道や電気が止まったりして生活できなくなります。個人再生はあくまで借金に困っている債務者の生活を立て直すための制度ですから,生活に深刻な影響が出るようなルールでは困ります。
また,裁判所での手続きに支払う費用や,個人再生委員への報酬も減額してしまうと,制度が成り立たなくなるため,減額するわけにはいきません。
以上から,例外的に個人再生手続で減額されない費用が定められており,その債権を「共益債権」と呼んでいます。
共益債権のほか,「一般優先債権」や「非減免債権」も減額されず,全額支払わなければなりません。これらの債権については,後程解説します。
個人再生における共益債権の取り扱い
個人再生手続の際,支払いを続けることが再生債権者全体の利益になるような請求権については,「共益債権」として再生債権とは別に扱われます。家主や水道局などの債権者は,手続き中も他の債権に先立って弁済を受けられる仕組みになっています。
似たような制度として,破産手続きにおける「財団債権」があります。破産手続によらないで破産財団から弁済を受けることができる債権のことで,破産管財人の報酬や,一部の税金等,従業員や使用人の給与等が当てはまります。
共益債権の具体例としては,裁判所に申立てを行う際の収入印紙や,個人再生委員が選任された場合の報酬,水道光熱費などの公共サービスや家賃,事業に欠かせない設備等にかかる費用等が当てはまります。
個人再生手続きに関係する債権の種類
個人再生手続においては,債権は大きく4種類に区別されます。
(1)共益債権
(2)一般優先債権
(3)非減免債権
(4)再生債権
このうち,(1)から(3)までは減額されない債権で,(4)のみが減額される債権となっています。
(1)共益債権
民事再生法に規定されている減額されない債権のことで,民事再生法第119条・第120条に定めがあります。代表的な共益債権についてご紹介します。
【代表的な共益債権】
①裁判上の費用の請求権
②業務,生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権
③再生計画の遂行に関する費用の請求権(再生手続終了後に生じたものを除く。)
④民事再生法の各規定に定められた費用,報酬及び報償金の請求権
⑤再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権
⑥事務管理又は不当利得により再生手続開始後に再生債務者に対して生じた請求権
⑦再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で,再生手続開始後に生じたもの
⑧再生手続開始の申立ての後,再生手続開始前に,資金の借入れ,原材料の購入その他再生債務者の事業の継続に欠くことができない行為をする場合(裁判所の許可が必要)
これらの支払いは,民事再生の手続きに乗らず,減額されないため全額の支払いが必要になります。
(2)一般優先債権
一般優先債権は民事再生法第122条に定めがあります。民事再生法以外の民法などの法律で,他の債権に優先して支払うべきとされている債権のことで,①一般の先取特権と②一般の優先権がある債権(共益債権であるものを除く)の二つに分けられます。
①一般の先取特権
先取特権とは,読んで字のごとく,債務者の財産から他の債権者に優先して支払いを受ける権利のことを言います。
【民法第303条 先取特権の内容】
先取特権者は,この法律その他の法律の規定に従い,その債務者の財産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
一般の先取特権については,民法306条に以下の定めがあります。
【民法第306条 一般の先取特権】
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は,債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給
このうち,共益の費用とは,各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存,清算又は配当に関する費用のことを指します(民法第307条)。
水道光熱費などの公共料金については,再生手続開始決定時の6ヶ月より以前に滞納していた分については,「再生債権」として減額されるのですが,再生手続開始決定時の6か月以内の滞納分については,「一般の先取特権」に含まれ,再生手続上の一般優先債権として,全額支払わなくてはなりません。
※ただし,下水道料金は,時期にかかわらず減額されませんので,すべて支払わなければなりません(民事再生法第50条2号,第119条,第122条,地方自治法第231条の3第3項および付則6条)。
②一般の優先権がある債権
代表例としては,公租公課(得税や住民税などの税金,国民年金,国民健康保険,社会保険料,罰金など),給与その他雇用関係に基づいて生じた債権などです。
(3)非減免債権
非減免債権とは,再生手続には組み込まれるものの,最終的には減額されない債権です。再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償権や,養育費などが当てはまります。
社会的に保護される債権については個人再生手続においても全額支払う必要があるということです。
非減免債権は,民事再生法第229条3項に定めがあります。
【民事再生法第229条3項に定められた非減免債権】
①再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
②再生債務者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
③夫婦間の協力及び扶助の義務(民法752条)
④婚姻費用の分担の義務(民法760条)
⑤子の監護に関する義務(民法766条)
⑥直系血族及び兄弟姉妹が互いに扶養する義務(民法877条~880条)
⑦③から⑥の義務に類する義務で,契約に基づくもの
これらの債権については,法律上「当該再生債権者の同意がある」場合には,債務の減免等も可能とされており,その点が税金や公共料金等の支払いとは違います。
その他にも再生債権と非減免債権とでは違いがありますので,後程詳しく解説します。
(4)再生債権
再生債権とは,再生手続により減額される債権のことで,銀行や消費者金融からの借り入れやキャッシング,クレジットカード会社への借金など,一般的な借金が当てはまります。
再生手続開始決定が出るということは,このままでは支払不能になるリスクがあるということです。そのため,いったん借金の弁済を禁止し,法律に則って再生計画を立てたうえで,弁済をしていくことになります。
個人再生手続で債権を複数に分ける理由
個人再生手続で「減額対象となる債権」と「減額されない債権」とに分類するのは,原則としては「債権者平等の原則」に基づいた借金減額を行いつつ,全利害関係人に利益になる債権については減額対象から外すという考え方に基づきます。
「債権者平等の原則」とは,複数の債権者がいる場合,全ての債権者を債権の金額に応じて平等に取り扱わなければならないという原則です。
例えば,債権者Aの借金は80%減額されるのに,債権者Bの借金は30%しか減額されない,といった扱いは,各債権者にとって不公平になるので法律上認められません。また,債務者の側も,「債権者Aの借金は減額してほしい,債権者Bにはお世話になっているので減額しないでほしい」といった要望を出すことはできません。
しかし,前述したように,生活に必要不可欠な家賃や水道光熱費,再生手続きに必要な費用などは,債務者が生活を立て直して生きていくのに必要な費用であり,全額を支払い続けることが債権者全員の利益になります。そのため,例外的に手続きから除外することになっています。
非減免債権との違い
共益債権と非減免債権の違いは,共益債権は最初から個人再生手続の流れから除外され,普段通りに支払いを続ける必要があるのに対し,非減免債権は一度個人再生手続の流れに組み込まれ,再生計画期間中は支払う金額が減額される点に違いがあります。
ただし,再生計画に基づいた支払い期間が終わると,残りの債務を原則として一括で返済するよう求められます。
非減免債権は,共益債権と違い,再生手続開始後は一時的に支払いからは解放され,また,再生計画に従って弁済している間は分割で支払います。
例えば,再生計画により債務が5分の1に減額されるケースであれば,非減免債権についても5分の1の金額を,原則3年で支払います。非減免債権が100万円あった場合には,5分の1の20万円は再生計画に基づいて3年で支払いをし,再生計画が満了した後に残り80万円を一括で支払うという流れになります。
要するに,非減免債権については,個人再生により一部の支払いを先延ばしにすることができるものの,いずれは全額支払わなければならないということになります。
※養育費について
子の養育費については,発生時期や滞納の有無によって扱いが異なることに注意してください。主に婚姻や離婚など家族に関する費用が問題になりますので,詳しくは弁護士にお問い合わせください。
・再生手続開始後に発生する養育費は共益債権
再生手続開始後にも発生する養育費については,再生手続とは関係なく,これまで通り全額の支払いが必要です。
・滞納している養育費は非減免債権
再生手続開始前に滞納していた養育費については,「非減免債権」として再生手続きに乗ります。つまり,再生計画中は減額された債権を分割して支払えばいいのですが,再生計画の期間が終了した後は残額を全て支払わなければなりません。
そのため,再生計画に基づく返済期間中に貯蓄をするなど計画的に対応していく必要があります。
共益債権などを不払いした場合のリスク
共益債権は生活に欠かせないために再生手続から除外されており,不払いを続けると家の立ち退きや公共サービスの停止など重大な影響が発生します。
また,税金などの一般優先債権を滞納している場合は,財産の差押えのリスクがあります。
税金が支払えなくて困っている場合,早めに担当部署に相談へ行く必要があります。状況に応じて,分割払いや猶予などの措置が認められる可能性があります。
東京弁護士会 登録番号 53737
困っている人を助けたい、という想いから弁護士を志しました。
女性でも相談しやすい環境をご用意していますので、お気軽にご相談ください。
【経歴】
明治大学法学部卒
明治大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(司法修習68期)