自己破産すると不動産は処分される?不動産の取り扱いとは

自己破産すると不動産は処分される?不動産の取り扱いとは

自己破産をすると不動産(土地・建物)は裁判所による処分の対象になります。自己破産をすると不動産が処分される具体的な手続きと,処分を回避する方法,任意売却の進め方について概説します。任意売却は競売より高く売れる可能性がありますが,任意売却後に自己破産をする際は注意が必要なため,法律の専門家に相談して行いましょう。

自己破産すると原則不動産は処分される

自己破産をすると,自分が所有している不動産は原則として処分されるので,手放さなくてはなりません。不動産に関してローンが残っていない場合と,ローンが残っていて抵当権が設定されている場合とで違いがありますが,いずれにしても処分されます。以下では,個人事件の自己破産における不動産の取り扱いについて説明します。

この記事では,お金を借りた人のことを債務者,お金を貸した人のことを債権者と呼びます。

(1)不動産のローンが残っていない場合

不動産にローンが残っておらず,他の借金の担保権なども設定されていない場合,自己破産をすると原則として裁判所が選任した管財人によって処分されます。

自己破産をすると,生活に必要な家財道具などを除いて,債務者が所有する一定以上の価値がある財産は処分対象になります。基本的には20万円の超える財産が処分対象となります(自由財産拡張申立てが認められた場合を除く)。土地・建物などの不動産は多くの場合20万円を超える財産なので,処分対象となります。
なお,自由財産拡張の実務運用は裁判所によって異なりますが,東京地裁の場合,一定の財産について20万円以下の場合には換価を要しない財産として換価基準が定められていますが,不動産はこの基準には該当しないため仮に不動産の価値が20万円以下の場合でも手元に残せる可能性は低いといえます。

自己破産は,借金の返済義務を免れることができる手続きです。強力な借金問題解決方法であるかわりに,一定額以上の財産を持っている場合,その財産を裁判所によって処分・換価されるというルールがあります。換価された財産は,債権者に配当されます。

なぜこうしたルールがあるのかというと,自己破産をすると債権者は貸したお金を取り戻せなくなり,犠牲を強いることになるからです。そのため,債務者に財産があれば,多少でも債権者の損失を埋めるために換金して配当するという仕組みになっています。

換価され,債権者に配当される対象となる財産の総体のことを「破産財団」と言います。債務者に財産がある場合,自己破産をすると破産管財人という裁判所が選任した弁護士が財産の換価・配当を行います。

管財事件の場合,自己破産の申立て後,裁判所が破産手続開始決定と同時に破産管財人を選任し,破産財団の管理・処分は破産管財人が行います。破産管財人は,裁判所の許可を得て,破産財団に属する不動産を売却し,債権者に配当します。

※不動産が共有の場合

債務者が不動産を複数人で共有している場合,債務者が持っている共有持分のみが処分対象となります。東京地裁の運用では,以下の流れが一般的です。
①破産管財人は,共有者に対して,共有者またはその親族等に破産者の共有持分買取りの意向がないか確認
②買取りが困難な場合には,共有不動産全体の売却の方が高額で売却できるため,共有者と交渉しながら共有不動産全体の売却ができないか検討
③それが難しい場合には,破産者の共有持分のみを第三者へ売却することを検討
④それも困難であれば,共有持分の無償譲渡や破産財団からの放棄も検討

(2)不動産のローンが残っている場合(抵当権が設定されている場合)

住宅ローン等を組んで購入した不動産で,まだローンが残っている場合は,不動産には債権者によって抵当権が設定されているのが通常です。
不動産の抵当権は,破産手続きとは別に行使できる「別除権」に該当するため,債権者は抵当権に基づく競売を申し立てて,その代金から債権を回収することが可能となります。
また,不動産のローンは完済していても,別の目的で借金をしていて,不動産に抵当権を設定している場合も同様です。

 通常,破産管財人が,不動産を任意売却する場合には,原則別除権者の有する担保権を抹消することが必要となりますので,競売手続きもしくは任意売却等によって不動産の売却手続がなされます。

自己破産しても不動産を残せるケース

自己破産をしても例外的に不動産を残せるケースとして,(1)不動産の価値が低い場合,(2)不動産の売却が難しい場合,の2つが挙げられます。

(1)不動産の価値が低い場合

山奥の不動産など,不動産の価値が非常に低いケースでは,破産管財人が裁判所の許可を得た上で,不動産を破産財団から放棄することが稀にあります。
放棄された不動産は,債務者が所有し続けることが可能です。
 もちろん結果的に破産財団から放棄されることもあるということであって,破産管財人は不動産の売却を目標に動きます。

(2)不動産の売却が難しい場合

不動産自体に一定の価値はあるものの,諸事情あって売却が困難な不動産の場合,破産管財人が不動産を破産財団から放棄することがあります。

債務整理後に不動産を残したい場合にどうすべきか

債務整理後にも不動産を所有していたい場合,自己破産ではなく,任意整理や個人再生をすることが必要になります。他の債務整理が難しく,自己破産するしかない場合は,親族への売却や,不動産会社へのリースバックなども検討可能ですが,なかなか難しいのが現状かと思います。仮に行う場合には,自己破産のルールに違反しないよう注意して行わなくてはなりませんので,慎重に対応する必要があるでしょう。

(1)任意整理や個人再生を選択する

借金の法的な解決手段である債務整理のうち,手続きをとると財産が処分されてしまうのは自己破産だけです。したがって,自己破産以外の手続きである任意整理や個人再生が可能ならば,そちらを選択することで不動産を守ることができます。

①任意整理

弁護士を通じて債権者と交渉し,借金の利息カットやリスケジュールを和解により実現します。借金の元本を減らすことは原則としてできないので,比較的借金問題が軽い人向けの手続きです。

②個人再生

裁判所を通じて借金総額を原則5分の1程度(最大10分の1)に大幅に減額します。財産を手元に残しつつ借金を大きく減らせるのですが,手続きが債務整理の中でも煩雑で時間がかかるとされています。

自己破産を考えるほど借金が苦しいのであれば,不動産を守るためには任意整理よりも,個人再生の方が適しているケースが多いでしょう。

もっとも,守りたい不動産が高価な場合,個人再生による借金の減額幅が少なくなったり,個人再生をするメリットがないケースもあります。

借金額が多すぎる場合や,無職で収入がない,もしくは返済に回せる収入がほとんどないケースなどでは,自己破産するしかない場合もあります。

詳しくは,弁護士に相談されることをおすすめします。

(2)親族に売却する

自己破産するしかないが,引き続き不動産を使いたい場合は,親族などに不動産を買い取ってもらい,その親族から不動産を使用する許可を得ることが考えられます。ただし,この方法には以下のような注意点があります。

①不当に安い価格で売却しない

親族だからと言って格安で不動産を売ると,破産管財人に「債権者を害することを知りながら,不動産を不当に安い価格で売却した」とみなされ,破産法160条の否認権を行使されて,売却自体が認められなくなる可能性があります。

②売却代金を使いこまない

売却代金を特定の債権者にだけ返済することや,生活に直接必要ないもののために使ってしまうと,破産管財人による否認の対象となります。原則,売却代金は破産財団に組み入れ,債権者への配当に充てることになります。

③免責不許可事由に該当する可能性がある

破産法252条には,借金を帳消しにする制度である「免責」を認めない場合について列挙しています。親族に不動産を売却する行為は,この免責不許可事由にあたる可能性があるため,事前に弁護士に相談したうえで,裁判所に問題視されないように慎重に行う必要があります。

(3)不動産企業に売却してリースバックしてもらう

リースバックとは,所有している不動産を不動産会社に売却し,その不動産を同じ会社から借りて引き続き使い続けることを指します。この方式によれば,不動産の所有者は不動産企業に変更されるので,自己破産をしても影響がなく,引き続き不動産を利用し続けることができます。

リースバックのメリットとしては,売却代金を得られるので,金額によってはこれを借金返済に充て,自己破産を回避できる可能性があることです。

とはいえ,(2)の親族への売却と同じデメリットがあるので,リースバックは専門家に相談したうえで行うことをおすすめします。通常,リースバックは,一般の市場価格での売却額より低額となることが多いため,不当に安く財産を手放したという指摘を受ける可能性があります。

また,破産管財人は不動産の賃貸借契約を解除する権限を持っています。リースバックした不動産を居住用に使っているのであれば,破産管財人は通常は解除権を行使しないことが多いです。しかし,居住用以外に利用している場合,賃貸借契約を解除する可能性が高いので注意してください。

自己破産前に不動産を任意売却することを検討する

一定の価値を持つ不動産を所有している場合,自己破産の前にまず,不動産の任意売却を検討することをお勧めします。任意売却とは,自分で不動産を買ってくれる人を探して売却することで,不動産に担保権がついている場合は債権者の同意を得たうえで行います。

任意売却には以下のメリットがあります。

①自己破産を回避できる可能性がある

任意売却が可能な場合,競売よりも高い価格で不動産を売ることができ,その売却代金で借金を完済もしくは減額することにより,債務整理を回避できるかもしれません。また,債務整理は必要であっても,自己破産よりデメリットの少ない個人再生や任意整理で済むかもしれません。

②管財事件ではなく同時廃止になる可能性が高い

自己破産の手続きには「管財事件」と「同時廃止」の2種類があり,原則として財産のある人・免責不許可事由がある人は管財事件,財産がない人・免責不許可事由がない人は同時廃止になります。

不動産を所有したまま自己破産をすると,管財事件になり,破産管財人が選任されます。この破産管財人に報酬を支払わなくてはならないため,管財事件は最低でも20万円以上と,裁判所費用が多くかかるのです。

事前に不動産を任意売却してしまい,財産がない状態で自己破産すれば,同時廃止となる可能性が高まります。同時廃止になれば裁判所費用は2万5000円程度,自己破産手続きにかかる期間も短縮されます。

管財事件になるか同時廃止になるかは,不動産を持っているかどうかだけでは決まりませんが,不動産を任意売却しておくことで同時廃止になる可能性を高めることができます。

 ただ,上記のとおり,自己破産申立て前に不動産の任意売却には注意する点が多いので慎重に行う必要があります。

③競売よりも高く売れる可能性がある

不動産が競売にかけられると,売却価格は市場価格よりも2~3割低くなるのが一般的です。任意売却の場合,市場価格よりは安いものの,8~9割程度の価格で売却できる可能性があります。

④個人情報が表に出ない

競売になると,不動産や物件の概要が競売情報に記載されます。また,競売情報はインターネットで閲覧可能なので,自宅の住所などの個人情報が表に出てしまいます。

任意売却の場合,不動産会社を通じて不動産を売るため,周りの人からは通常の不動産の売却と区別がつきません。そのため,プライバシーを守ることができます。

任意売却の流れと注意点

任意売却の際,抵当権が不動産についている場合は債権者の許可が必要です。その後,任意売却を取り扱っている不動産企業に所有する不動産の査定を依頼し,査定額を踏まえたうえで,債権者ともコミュニケーションを取りながら手続きを行います。

【任意売却の注意点】

①債権者の許可が必要

債権者によっては任意売却に難色を示すケースがあるため,債権者との協議も必要です。

②破産管財人によって任意売却される場合

破産手続開始決定後,破産管財人の判断で任意売却となるケースがありますが,この場合は債務者が希望する不動産会社ではなく,破産管財人が指定する不動産会社になるため注意が必要です。
(それまでの交渉手続がある場合などでは,破産管財人へ情報を引き継いで進めるケースもあります。)

不動産の所有者が自己破産する前に気をつけるべきこと

自己破産直前の財産の処分に対しては,裁判所の目が厳しくなるため,不動産を売却する前に必ず自己破産に詳しい専門家に相談してください。

特に,以下の行為は裁判所によって問題視されます。

  • 不動産を極端に安い価格で親戚などに譲る,あるいは無償で贈与する行為
  • 売却代金を使い込む行為

不動産は高価な財産のため,自己破産直前の不動産の名義変更・売買には特に厳しい目が向けられます。最悪,自己破産に失敗し,免責が認められないおそれがありますので、慎重に対応する必要があります。