自己破産をすると国民健康保険料の滞納は減免されるのか

自己破産をすると国民健康保険料の滞納は減免されるのか

自己破産をした場合でも,国民健康保険料は免責 対象とはなりません。自己破産と国民健康保険料の関係について詳しく解説します。国民健康保険料は非免責債権のため,自己破産をしても支払わなくてはならず,未納を続けると最終的には財産を差し押さえられます。国民健康保険が支払えない場合の対処法や,健康保険料を納付している場合に自己破産すると保険診療に影響があるのかどうかについて概説します。

国民健康保険料を滞納するとどうなるのか?

国民健康保険料を長期にわたって滞納すると段階的に健康保険の利用が制限され,1年6カ月以上滞納が続く場合には,特別療養費や高額療養費の支払いも全部または一部停止されるので,全額自己負担(保険資格の喪失)となります。また,最終的には被保険者の財産が差し押さえられます。

国民健康保険料の滞納分は,自己破産をしても免除されず,支払わなくてはならない「非免責債権」にあたります。その代わり,保険料を支払っていれば,自己破産手続中や自己破産後に関係なく,病気になった際に健康保険を利用することができます。

国民健康保険は,会社員等が加入する健康保険とは違って,保険料を自分で納付しなくてはなりません。しかし,国民健康保険制度に不信感を持っていたり,経済的に困窮していたりしていると,国民健康保険料の支払いをつい先延ばし,後回しにしてしまうケースも多いと思います。

しかしながら,国民健康保険料を滞納することはデメリットが大きいです。国民健康保険料が支払えず困っている場合は,早めに自治体等に行き,減額や猶予などご自身の状況にあった支払い方法について相談されることをおすすめします。また,その他の債務がある方は,弁護士に債務整理を依頼し,他の借金を減らして国民健康保険料を支払いやすくできないか検討しましょう。

国民健康保険料を滞納し続けた際の差し押さえまでの流れ

国民健康保険料を滞納し続けた場合のペナルティや,保険給付の停止,差し押さえまでの流れはおおよそ以下のようになっています。

(1)延滞金の発生
(2)督促状による催促
(3)文章や電話,自宅訪問による催促
(4)短期被保険証の交付
(5)被保険者資格証明書の交付
(6)保険資格の喪失
(7)滞納処分による財産の差し押さえ

(1)~(7)まで順序通りに進むとは限らず,(2)の督促状の段階まで進み,督促状を発送した日から10日過ぎても納付がされない場合,いつでも(7)の滞納処分による財産の差し押さえがなされるおそれがあります。強制的に財産を差押えされてしまう前に,早めに滞納処分を解消するための対応をしましょう。

(1)延滞金の発生

国民健康保険料を期日通りに納付しないと,納付期限の翌日から納付日までの滞納日数に応じた延滞金が発生します。延滞金の金額は保険者(地域や組合)ごとに異なるので,お住まいの地方自治体のホームページや窓口で確認してください。

ただし,延滞金は,(2)の督促状による催促をされた時点までで納めれば,請求されない場合もあります(※請求されるケースもあります)。そのため,支払う保険料を少なくしたい場合は,出来るだけ早めに納付したほうが良いでしょう。

(2)督促状による催促

未納のままでいると,やがて保険者(地方自治体や組合)から督促状が送られてきます。督促状には国民健康保険料の再納付期限が記載されていますので,その日までに納付をする必要があります。督促状の発送から10日が経過すると,いつ滞納処分をされてもおかしくない状態になります。

(3)文章や電話,自宅訪問による催促

督促状の納付期限までに納付が無かった場合,催告書や電話による納付勧告が行われることがあります。また,自治体や業務委託先の関係者が直接自宅に訪問して支払いを求めるケースもあります。

(4)短期保険証の交付

国民健康保険料を半年以上滞納した場合,保険証は通常のものから,期限の短い「短期保険証」に切り替わります。これは,自治体等が保険料未納者との接触機会を増やし,自主的な納付や納付に関する相談などを働きかけることを目的として設けられたものです。通常の保険証より期限が短いだけで,自治体の窓口で検認・更新を行えば,医療機関で通常どおり保険を利用できます。

こちらのサイトも参考にしてください。
「厚生労働省 国民健康保険(市町村)との連携について-国民年金保険料等の未納者に対する国保短期被保険者証の活用-(https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/06-1d_0003.pdf)」

(5)被保険者資格証明書の交付

国民健康保険料の滞納期間が1年以上となった場合は,短期被保険者証の返還を求められ,代わりに「被保険者資格証明書」が交付されます。これは国民健康保険の被保険者であることを証明する書類で,健康保険証ではありません。

被保険者資格証明書を医療機関に提示すると,診療を受けることができますが,10割自己負担となります。資格証明書で10割負担をした場合,保険者(地方自治体や組合)の窓口で申請をすれば支払った金額のうち,保険者負担分(通常は7割)が返金されるという仕組みとなります。

(6)保険資格の喪失

国民健康保険料の滞納期間が1年6カ月以上に及ぶと,被保険者資格証明書すら交付されなくなり,全額自己負担となります。

(7)滞納処分による財産の差し押さえ

保険料を滞納している世帯には,保険給付の差し止めとは別に,財産差押処分を行う場合があります。差し押さえ対象は預貯金のほか,不動産,車,解約返戻金がある生命保険,給与などがあります。国民健康保険料滞納による差押えは,一般の債権と異なり,裁判をしなくてもすぐに可能です。予告なく行われますので,そうならないように,早めに自治体等に相談されることをおすすめします。

国民健康保険の消滅時効

国民健康保険料の徴収権も,制度上は納付期限の翌日から起算して2年間で時効消滅します。しかしながら,現実的には国民健康保険が時効にかかる可能性はほとんどなく,時効消滅に期待して未納を続けることはやめた方が良いでしょう。

国民健康保険法第110条には,国民健康保険料について規定があります。

国民健康保険法第110条 (時効)
保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し,又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は,これらを行使することができる時から二年を経過したときは,時効によつて消滅する。

ただし,自治体等の保険者から納付の告知や督促が行われた場合には,時効の更新の効力が生じます。時効の更新とは,時効期間がリセットされることです。

通常,国民健康保険料を滞納した場合,保険者からの督促が行われます。国民健康保険法第110条は,何らかの事情で督促漏れがあったというまれなケースに関する規定のため,国民健康保険料が時効により消滅することは期待しないほうがいいでしょう。

国民健康保険が支払えない場合

国民健康保険が支払えない場合は,まず保険者(地方自治体や組合)にご相談ください。申請をすることで,保険料の減免や一時猶予が可能な場合があります。それ以外の方法としては,債務整理により他の借金の負担を減らす,家族等の社会保険の扶養に入る,生活保護を受けるといった方法があります。

(1)保険者に相談する

お住まいの地方自治体の国民健康保険の窓口,または加入されている国民健康保険組合の窓口や各都道府県の窓口に相談しましょう。例えば,東京都墨田区の場合,「災害や事業の休廃止,失業,病気などで生活が著しく困難となった場合」について,国民健康保険料の減免や一時猶予が可能であると公式ホームページに記載しています。

東京都墨田区「国民健康保険料の減免・一時猶予(https://www.city.sumida.lg.jp/kurashi/kenkouhoken/kokuminkenkouhoken/genmen/genmenyuuyo.html)」

他の地方自治体等でも同様の制度が設けられていますので,検索してホームページを確認のうえ,記載されている問い合わせ先に連絡を取りましょう。

上記の減免や一時猶予が認められない場合であっても,どうしても保険料が支払えない事情がある場合は,保険者に相談することで分納などを認めてもらえる場合があります。

(2)債務整理により他の借金の負担を減らす

銀行や消費者金融,カード会社等に対し借金を返済していて,その負担により国民健康保険料が支払えない場合,弁護士に相談して債務整理を行うことも一つの方法でしょう。債務整理とは,自己破産・個人再生・任意整理の総称ですが,それぞれに特徴がありますので,自分に合う方法はどれかよく検討しましょう。

(3)家族等の社会保険の扶養に入る

国民健康保険は加入者一人一人が支払う必要があり,「扶養」という概念はありません。一方,一般的な給与所得者が加入する社会保険には扶養制度があり,一定の条件の下,配偶者や生計を一にしている親族を扶養に入れることが可能です。

(4)生活保護を受ける

事情があって生活に必要な収入が得られず苦しい場合,生活保護を受ければ,国民健康保険料を支払う必要はなくなります。生活保護受給者は国民健康保険の資格がなくなるためです。その代わりに,医療扶助という制度があり,生活保護法の指定を受けた病院での医療費は全額医療扶助で負担となりますので,原則として自己負担はありません。

事前に生活保護法の指定を受けた病院かどうか確認が必要なことなど,不便な点がありますが,生活状況が厳しい場合は生活保護の受給も検討されてはいかがでしょうか。

自己破産すると健康保険料や税金も免除される?

自己破産をしても健康保険料や税金は免除されません。自己破産には「免責」という,借金の返済義務を免除してもらう制度がありますが,健康保険料や税金は「非免責債権」と言って,免責の対象から除外されています。免責決定を受けたとしても,支払わなくてはなりません。

とはいえ,自己破産などの債務整理をすることでその他の借金の返済負担が無くなり,結果として健康保険料や税金を滞りなく支払える可能性があります。

債務整理は,一般的には自己破産・個人再生・任意整理の総称です。

「任意整理」…弁護士が貸主(一般には金融機関,消費者金融,クレジットカード会社など)と私的に交渉し,利息のカットや月々の返済額を抑えたりする方法です。社会的影響が少なくて済みますが,原則として借金の元本は減額されません。
「個人再生」…裁判所で手続きして借金総額を大幅カット(原則債務総額の5分の1。最低100万円の返済。)します。自己破産のように財産を処分されることはありませんが,手続きが複雑で時間がかかります。
「自己破産」…裁判所で手続きして借金の返済義務を免除してもらう手続きです。ただし,不動産・保険の解約返戻金・預貯金など一定額以上の財産は裁判所により処分されます。

ご自身の状況にあった債務整理はどれか,無料法律相談などで弁護士に相談されるとよいでしょう。

国民健康保険料を納付していた場合,自己破産すると健康保険は無効になる?

自己破産を行えば,例えば車のローンの場合,残りのローンを払わなくてもよくなる代わり,契約内容によっては車をローン会社に引き上げられてしまうことがあります。また,信用情報はブラックになりますので,借入やクレジットカードは利用や更新,新規作成が一定期間難しくなるなどの影響があります。

国民健康保険料は保険料を納付していれば,自己破産をしたかどうかに関係なく,今まで通り保険診療を受けることが可能です。お金に困っていても支払わなくてはならない代わり,支払ってさえいれば必ず保険診療を受けることができ,医療費はこれまで通りの自己負担額で済みます。

保険料を滞納し続けた場合のペナルティが怖い国民健康保険ですが,きちんと支払う限り突然の疾病や怪我に備えることができる強力なサービスです。健康は生きていくうえで大切な資産ですから,自己破産後の未来を見据える意味でも,国民健康保険を滞納しないようにしましょう。