個人再生が不認可になる場合とは 再生計画認可の要件について

個人再生が不認可になる場合とは 再生計画認可の要件について

個人再生が不認可になる場合について、わかりやすく解説します。民事再生法には、あてはまると個人再生計画が不認可となる「不認可事由」が定められています。個人再生の手続きには小規模個人再生と給与所得者等再生があり、2つに共通する不認可事由と、それぞれに固有の不認可事由があります。個人再生が不認可になってしまった場合の対応策についても触れます。

個人再生認可の要件とは?

個人再生は裁判所に申し立てて、借金を大幅に減額できる手続きですが、手続きをすれば100%減額されるというわけではなく、法律に定められた個人再生が認可されるための要件をクリアする必要があります。

個人再生は、借金に困っている人のための債務整理手続きの一つです。債務整理のうち、任意整理は基本的に借金の元本を減らすことはできませんが、個人再生ならば債務の額を5分の1~10分の1程度と大幅に減らせます。また、自己破産のように一定額以上の財産を処分されてしまうこともありません。

個人再生は、このようにメリットの大きい制度であるかわり、手続きは債務整理の中でももっとも複雑と言われています。まず、手続きを開始してもらうためには、民事再生法に定められている再生手続開始の要件を満たさなくてはなりません。また、申し立てが受理されて再生手続きが開始しても、個人再生不許可事由がある場合は個人再生計画が認められません。

個人再生手続きには、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類があり、2つに共通する不認可事由と、個別の不認可事由とがあります。

せっかく時間や手間をかけて進めた再生手続きが、再生計画の段階で不認可とならないために、再生計画認可の要件や、不認可事由について知っておきましょう。

個人再生は、制度上は個人で手続きすることもできますが、手続きの煩雑さや、不許可事由に注意する必要もあることなどから、専門家である弁護士に依頼されることをお勧めします。

再生計画認可要件とは?

民事再生における再生計画認可のための要件とは、「①再生計画案が可決されたこと」「②再生計画不許可事由がないこと」の2つです。

民事再生法には大きく分けて、企業や法人のための再生手続きと、個人のための再生手続きがありますが、そのすべての手続きに共通する再生計画認可要件について、民事再生法174条に定めがあります。

【民事再生法174条】再生計画の認可又は不認可の決定

再生計画案が可決された場合には、裁判所は、次項の場合を除き、再生計画認可の決定をする。

2  裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。

一  再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し、かつ、その不備を補正することができないものであるとき。ただし、再生手続が法律の規定に違反する場合において、当該違反の程度が軽微であるときは、この限りでない。

二  再生計画が遂行される見込みがないとき。

三  再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。

四  再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。

「①再生計画案が可決されたこと」

個人再生手続きにおける2種類の手続きのうち、「小規模個人再生」に関しては、「再生債権者による再生計画案の決議」という手続きで、再生計画案が可決されなくてはなりません。

再生債権者とは、再生手続きにおいて、借金やローン、クレジットカードの支払いなどで、お金を返してもらう権利を持っている人のことです。個人再生を行うと、借金などの債権が大幅に減額されます。再生債権者はそれだけ損をすることになるので、再生計画案を再生債権者にチェックしてもらって、同意を得るという手続きを取ります。

再生債権者は、自己破産して借金を取り返せなくなるよりはましなので、減額された再生計画案に応じることがほとんどです。決議は書面で行われ、不同意の場合にのみ不同意の回答書を提出してもらう仕組みです。これを、消極的同意と言います。再生債権者が特別の異議申し立てを行わない限りは、再生計画は可決されます。

しかしながら、金融業者の中には、異議を申し立てる方針の企業もあります。また、業者ではなく個人からお金を借りた場合、異議が出ることは珍しくはありません。こうしたケースでは、再生決議案が否決されることがあります。否決されるのは以下の場合です。

  • 不同意の回答書を提出した再生債権者の人数が、再生債権者全体の半数以上であった場合
  • 再生債権総額の2分の1を超える再生債権を持つ再生債権者が、不同意の回答書を出した場合

例えば、再生債権者が6人いて、そのうち3人が不同意の回答書を送ると、再生計画は否決となります。また、6人中1人だけが不同意であったとしても、再生債権全体の総額が2,000万円で、不同意とした再生債権者が1,000万円を超える再生債権を持っている場合は、やはり否決となります。

※給与所得者等再生では、再生債権者の消極的同意が不要

個人再生手続きのうち、給与所得者等再生手続きによれば、再生債権者の消極的同意が必要でなくなります。そのため、給与所得者等再生の場合「①再生計画案が可決されたこと」という要件はなく、「②再生計画不許可事由がないこと」のみが要件となります。

一般的に、小規模個人再生のほうが借金の減額率が高くなるため、小規模個人再生がよく利用されます。しかし、上記のように相手方の再生債権者の不同意が予想されるケースでは、給与所得者再生を選んだほうがよいこともあります。

「②再生計画不許可事由がないこと」

再生計画不認可事由とは、見た目の通り、それにあてはまると再生計画を不認可としなければならない事由のことです。

再生計画認可要件の不認可事由一覧

再生計画不認可事由は法律で定められており、法人の民事再生を含めたすべての民事再生手続に共通の不許可事由と、「小規模個人再生」「給与所得者等再生」のそれぞれに固有の不認可事由があります。

【すべての民事再生手続に共通の不許可事由】

①再生手続や再生計画に、重大な法律違反があって、その不備を補正することができないとき

法律違反が発見されても、軽微なものであれば、不認可とはなりません。

②再生計画が遂行される見込みがないとき

個人再生の場合、自己破産のように借金が帳消しにはならないため、再生計画に従って原則3年(最長5年)、分割返済を続ける必要があります。債務者の職業や収入状況に照らして、この返済計画に従って完済できる見込みがないと裁判所が判断したときは、再生計画が不認可になります。具体例としては、再生手続き中にリストラなどで職を失ったケースなどが考えられます。

③再生計画が再生債権者の一般の利益に反するとき

例えば、再生計画で提示された弁済額が、清算価値保証原則に反しているケースがあります。清算価値とは、債務者がもっている財産のうち、一定額以上の価値のある財産をすべて売却した場合の総額のことです。個人再生においては、この清算価値よりも多くの金額を弁済しなければならないというルールがあり、これを清算価値保証原則と言います。

④再生計画の決議が不正の方法によって成立したとき

法人の再生手続きや、「小規模個人再生」の場合に当てはまる不許可事由です。例えば、再生債権者を脅迫したり、詐欺を働いたりしたことによって再生計画に同意させた場合がこれに当てはまります。

ほかには、再生債権者の過半数が再生計画に同意していない状況で、再生債権の一部を他者に譲渡させることにより、決議を可決させたケースもこれに当たるとした判例があります。

「給与所得者等再生」の場合は、再生計画の決議を要しないので、④の不許可事由は当てはまりません。

【小規模個人再生の不許可事由】

小規模個人再生に固有の不認可事由は、民事再生法231条に定めがあります。

①再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがないとき

個人再生をするためには、一定の収入が必要となりますが、この収入が失われてしまった場合などは、再生計画が不認可となります。

②再生債権の総額が5,000万円を超えているとき

基本的には、「住宅ローンを除く借金の総額が5,000万円を超えないこと」と言うことができます。家賃や税金、子の養育費などは再生債権には含まれません。

③再生計画に示された計画弁済の額が最低弁済額を上回っていないとき

最低弁済額とは、個人再生手続き後、最低限、これだけの金額は支払わないといけないと決められている額のことです。借金の総額によって最低弁済額は異なってきます。

④再生債務者が債権者一覧表に住宅資金特別条項を利用する旨の記載をした場合において、再生計画に住宅資金特別条項の定めがないとき

住宅資金特別条項とは、住宅ローン特則とも呼ばれ、住宅ローン返済中の人が、個人再生手続き後もマイホームに住み続けることを可能とする制度です。債権者一覧にこの制度を利用したいと書いて提出したのに、再生計画において住宅ローン特則について何も書かれていなかった場合は、再生計画は不認可となります。

【給与所得者等再生の不許可事由】

給与所得者等再生の場合、債権者の同意を必要としない代わりに、固有の不許可事由が存在します。

①再生債務者が、給与やこれに類する定期的な収入を得ていないとき。または、得られる収入の変動幅が小さくないとき

給与所得者等再生は、サラリーマンを典型とする、定期的かつ変動幅の少ない収入を得ている人向けの手続きです。そのため、例えば転職して個人事業主になり、収入があっても金額の変動幅が大きいケースなどでは、給与所得者等再生の利用は難しくなります。

②過去にも給与所得者等再生の手続きをしていた場合、前回の再生計画認可決定確定日から7年経っていないとき。あるいは、ハードシップ免責や破産免責許可決定確定日から7年経っていないとき

以前にも個人再生手続きや自己破産手続きをしたことがある人については、2度目の個人再生手続が可能になるまで、7年間期間を開けなくてはならないケースがあります。

・過去に給与所得者等再生を行っていた場合

過去に給与所得者等再生手続きを行い、それから7年経たないうちにまた給与所得者等再生手続きを行うと、不認可事由になります。

過去にハードシップ免責を受けていた場合

ハードシップ免責とは、再生計画に従った返済中に、やむを得ない事情により返済が困難になった時に、裁判所に申請することができる救済制度です。災害や病気、就職先の倒産など、債務者に責任がない事情で返済が難しくなった際、すでに債務総額の4分の3以上を返済している場合には、裁判所の認可を受け、残債務の返済を免責してもらうことができます。このハードシップ免責から7年経っていない場合は不許可事由となります。

・過去に自己破産していた場合

自己破産手続きをして免責が認められ、借金が帳消しとなってから7年経っていないときは、個人再生計画認可の不認可事由となります。

③再生計画に示された計画弁済の額が可処分所得の2年分を上回っていないとき

可処分所得とは、再生債務者の給与などの収入の合計額から、税金や社会保険料と、再生債務者および養っている家族の最低限の生活費を差し引いた金額のことです。給与所得者等再生の場合、この可処分所得の2年分より多くの金額を債権者に弁済しなくてはなりません。再生計画で、このルールを守った弁済額になっていないと、再生計画は不認可となります。

個人再生が不認可となったらどうすれば良い?

個人再生で再生計画が不認可となってしまうと、手続きは終了し、借金は減額されないまま全額残ります。もっとも、もう一度手続きをし直すことはできるので、不認可事由がなくなった後に再び個人再生を申し立てることはできます。

例えば、リストラで一時収入が途絶えたけれど、その後よい再就職先があって個人再生が可能になった場合などは、再申請が可能です。

不認可事由が解消できない場合は、任意整理や自己破産など、他の債務整理があります。収入の問題で個人再生ができない場合は、自己破産であれば、現在収入がなくても手続きが可能です。

個人再生ができない事例であっても、人生を立て直す前向きな意欲と決意があれば、必ず借金問題を解決する方法はあります。

個人再生手続きに際しては、専門家である弁護士に事前に相談されることをお勧めします。インターネットで調べて、「自分には個人再生がベスト」と思えても、専門家に意見を聞くことで、よりご自身にあった債務整理の方法が見つかるかもしれません。

近年、多くの法律事務所では、借金に関する相談を無料で受け付けています。無料で相談に乗ってもらった後に、その事務所に依頼をしなくても問題はありません。まずは、こうした無料相談を利用されるとよいでしょう。