自己破産をすると選挙権や被選挙権がなくなるのか

自己破産をすると選挙権や被選挙権がなくなるのか

自己破産しても選挙権や被選挙権はなくならないため、普段通りに選挙に参加できます。自己破産すると選挙権がなくなると誤解された理由や、一般的に自己破産すると影響があると勘違いされていることと、現実に起こるデメリットについてまとめました。自己破産のデメリットを正しく理解したうえで手続きを行いましょう。

自己破産しても選挙権はなくならない

自己破産をしても選挙権はなくなりません。選挙権は憲法15条3項により、「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。」として、日本国民で18歳以上であれば誰もが選挙権を保障されています。選挙権は、自己破産によって奪われることはありません。

衆議院議員や参議院議員の選挙権だけではなく、地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権も、自己破産で失われることはありません。

選挙権について具体的に定めた法律としては、公職選挙法第9条があります。

【公職選挙法第9条 選挙権(一部引用)】
日本国民で年齢満十八年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。
2 日本国民たる年齢満十八年以上の者で引き続き三箇月以上市町村の区域内に住所を有する者は、その属する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する。

公職選挙法第15条には、例外的に選挙権を奪われるケースも規定されています。しかし、当該条文には「自己破産したこと」は含まれていません。したがって、自己破産前、手続中、免責後いずれのタイミングにおいても、選挙があれば投票することができます。

選挙権を失うケースについては、総務省公式サイトの「選挙権と被選挙権」にわかりやすくまとめられています。

【権利を失う条件】
1.禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
2.禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)
3.公職にある間に犯した収賄罪により刑に処せられ、実刑期間経過後5年間(被選挙権は10年間)を経過しない者。または刑の執行猶予中の者
4.選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行猶予中の者
5.公職選挙法等に定める選挙に関する犯罪により、選挙権、被選挙権が停止されている者
6.政治資金規正法に定める犯罪により選挙権、 被選挙権が停止されている者

総務省:選挙権と被選挙権(https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo02.html)

被選挙権(立候補)も自己破産による制限はない

被選挙権、すなわち立候補して国会議員や地方公共団体の長や議会議員等になろうとする権利も、自己破産に関係なく保障されています。

被選挙権の条件としては、参議院議員と都道府県知事は満30歳以上、それ以外の被選挙権については満25歳以上であることが必要です。都道府県議会議員と市区町村議会議員は、住所についても条件があります。以下に条件をまとめました。

【被選挙権の種類と条件】

被選挙権を失う条件は、選挙権を失う権利と同じで、禁固以上の刑を犯した者など犯罪にかかわったケースに限定されます。破産は犯罪ではありませんので、選挙権を失うことはありません。

ただし、選挙に立候補したい場合は、全ての選挙で一定額の現金または国債証書を法務局に預け、証明書を提出する必要があります。これを「供託」と言い、売名などの理由でむやみに立候補することを防ぐ目的があります。

例えば、衆議院小選挙区の場合は300万円、最も安価な町村議会の場合でも15万円を供託しなくてはなりません。自己破産直前や手続中、直後の立候補は資金的にかなり厳しいと言えるでしょう。

自己破産によって無事に生活が再建され、経済的に余裕ができれば、選挙に立候補することは全く問題ありません。

自己破産すると選挙権がなくなると勘違いされる理由

「自己破産をすると選挙権が奪われる」といった噂が広まった理由としては、かつては、「選挙権及び被選挙権を有しない者」について定めた公職選挙法11条1項1号に「禁治産者(成年被後見人)」があったからだとも言われています。

現在の公職選挙法11条を見ると、以下のように規定されています。(一部抜粋)

【公職選挙法11条 選挙権及び被選挙権を有しない者】
 次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一 削除
二 拘禁刑以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
三 拘禁刑以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
(以下略)

この「削除」となっているところに、かつては「禁治産者(成年被後見人)」と記載されていました。禁治産者とは、1999年12月以前の民法で、心神喪失の常況にあり、家族などの利害関係人からの申立てで家庭裁判所が禁治産宣告をした人のことを言いました。

簡単に言うと、病気や高齢などで判断能力が低下し、自分の財産を管理できる能力が無いと判断された人のことです。禁治産者は自ら法律行為をすることが禁じられました。また、禁治産者には後見人がつき、後見人により禁治産者の法律行為は常に取り消せるようになっていました。

禁治産者制度は2000年に、より個人に配慮するなど改善を加えて「成年後見制度」となってスタートしました。かつての禁治産者は「成年被後見人」と呼ばれるようになりました。

成年被後見人は、公職選挙法11条1項1号により選挙権をはく奪されていましたが、2013年に東京地裁がこの規定を違憲無効とする判決を出し、法律の改正が行われました。

成年被後見人は、自力ではお金の管理が難しいと判断された人であるため、自己破産者と同じようなものだと混同され、誤解が広まったのだと言われています。

しかし、実際は成年後見制度と自己破産は全く別の制度で、自己破産したからと言って成年後見制度にいう成年被後見人に該当するわけではありません。

どちらにしろ、現在は誤解の原因となった条文は削除され、今では成年後見人も選挙に参加することができます。

自己破産すると制限されると勘違いされていること

選挙権・被選挙権に対する誤解以外にも、自己破産すると様々な制約があると誤解されています。以下に代表的なものを紹介します。

  • 自己破産をすると結婚できない
  • 自己破産した事実が、戸籍や住民票、マイナンバーに掲載される
  • 自己破産するとパスポートを取得できない
  • 自己破産を理由に会社を辞めさせられる
  • 自己破産すると就職や転職ができなくなる
  • 自己破産すると賃貸借契約ができない
  • 自己破産をすると銀行口座が作れなくなる
  • 自己破産をすると年金が受け取れない

・自己破産をすると結婚できない

自己破産をしても、法律上、結婚には全く影響はありません。自己破産や経済的な理由で結婚を禁じる条文は存在しません。また、戸籍や住民票等にも自己破産の事実が掲載されることはないため、自己破産したことが相手やその家族に知られることもありません。

・自己破産した事実が、戸籍や住民票、マイナンバーに掲載される

自己破産したことが戸籍や住民票、マイナンバーカードなどに掲載されることはありません。

ここで誤解されがちなのは、「自治体には破産者名簿というリストがある」という事実です。確かに破産者名簿は存在しますが、これは非公開の名簿である上、「免責不許可になった場合」や「免責申し立てが却下になった場合」等の特殊なケースにしか掲載されません。ほとんどの人は自己破産手続によって免責がされるため、この名簿に載ることはないのです。

破産者名簿は、弁護士などの特定の職業に就いている方に関し、破産者ではないことを証明する身分証明書を発行するために作成・保管されています。破産者名簿は非公開で、本人の意思に反して無関係な第三者が閲覧することはできません。

・自己破産するとパスポートを取得できない

自己破産をしてもパスポートは取得・更新できます。法律上、自己破産者がパスポートを取得したり更新したりすることを禁止する規定はありません。

ただし、自己破産手続の種類が「管財事件」となった場合、手続き期間中は裁判所や破産管財人といつでも連絡が取れる状態である必要があるため、海外渡航は制限されることがあります。

・自己破産を理由に会社を辞めさせられる

自己破産をしても、それを理由に会社を辞めさせられることはありません。自己破産が同居の家族以外に知られるリスクはほとんどありませんが、仮に自己破産をして解雇させられた場合、労働契約法違反になる可能性があります。

労働契約法上の労働契約の解除には、「客観的に合理的な理由」や、「社会通念上の相当性」が必要であり、これが認められない場合は解雇権の濫用として無効になります。(労働契約法第16条)

【労働契約法第16条 解雇】
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

不当な理由で解雇を言い渡された場合、弁護士にご相談ください。

ただ、警備員や生命保険の募集人など、一部の仕事では自己破産手続中だけ仕事ができなくなります。免責許可が出れば再びこれらの仕事に就くことができますが、これにより会社の業務に支障が出る場合、自己破産以外の手続きも可能か、検討したほうがよいでしょう。

・自己破産すると就職や転職ができなくなる

自己破産手続をすると一時的に一部の職業に就けなくなるものの、手続きが済んで免責が下りれば制限はなくなります。そのため、ほとんどの場合就職や転職には影響がありません。

例外的に、金融機関や保険会社、信用情報機関、地方公共団体の税務関係の部署等への就職・転職を望む場合は、官報に自己破産した事実が掲載されるため、影響する可能性があります。

・自己破産すると賃貸借契約ができない

自己破産をしても、借家などの賃貸借契約を結ぶことができます。ただし、賃貸物件のうち、「信販系」と呼ばれるクレジットカード会社関係の家賃保証会社がついている場合、審査に落ちることがあります。

URの賃貸住宅や、独立系の家賃保証会社であれば問題なく契約できるので、そうした物件を探すと良いでしょう。

また、既に住んでいる賃貸住宅については、家賃の滞納が無い限り自己破産を理由に退去させられることはありません。

・自己破産をすると銀行口座が作れなくなる

自己破産をしても銀行口座は新たに開設することは可能です。

ただし、既に持っている口座については、カードローンなどの債務がある銀行の場合、自己破産をすると一時的に口座が凍結されます。これは、銀行側が持っている借金と預金残高を相殺するためで、凍結中は当該口座が使えなくなります。給料の受け取りや公共料金の引き落とし等にその口座を使っている場合は、あらかじめ別の口座に変更する手続きが必要です。

・自己破産をすると年金が受け取れない

自己破産をしても、国民年金や厚生年金などの公的年金は問題なく受け取れます。iDeCoも公的年金の一種であるため、全額受け取り可能です。

ただし、個人年金などの私的年金を積み立てていた場合、自己破産した際に財産として扱われ、影響があります。

自己破産によるデメリットを正しく理解する

自己破産によるデメリットは主に以下の4つです。

・一定額以上の財産や現金は裁判所に処分される

自己破産をすると、一定額以上の財産は裁判所によって処分・換価され、債権者に配当されます。一定額とは、裁判所にもよりますが、東京地裁の場合は20万円以上が基準となっています。売却して20万円未満の財産や、生活に必要な道具は処分されません。
現金は、99万円を超えると分の対象になります(その他の財産との合計額は制限あり)。

・自己破産後、一定期間は新たな借入やクレジットカードの作成・更新ができない

自己破産をすると、信用情報機関という、個人の信用情報を記録する機関に自己破産した事実が記録されるため、新たな借入やクレジットカードの作成・利用が難しくなります。

自己破産後7年ほどで記録が削除されるため、その後は新たな借金やクレジットカード利用が可能になります。

・一部の職業に就けなくなる

警備員、社会保険労務士、生命保険の募集人など、一部の職業は自己破産手続の期間中だけ仕事をすることができなくなります。ご自身の職業が制限職種にあたるかどうかは、一度検索等で確認されるか、不安な場合は弁護士に相談されることをお勧めします。

・自己破産をすると官報に載る

自己破産をすると、官報に氏名や住所などの個人情報が掲載されます。ただし、現在、破産の情報などプライバシー配慮が必要な記事は、官報発行サイトで、画像化処理されたPDFデータで掲載され、キーワード検索ができなくなっています。ほとんどの日本国民は日常的に官報を読むことはないため、官報から家族や知人・勤め先に自己破産が知られるおそれはほとんどないでしょう。