債務整理は2回目でもできる 2回目の注意点とポイントについて
債務整理は2回以上行うことが可能ですが,1回目とは違った注意点やポイントがあります。基本的には1回目よりハードルが高くなりますが,任意整理の場合は,1回目と債権者が同じか,違うかで難易度が異なります。個人再生の場合は,ハードシップ免責を受けられるかどうかで事情が異なります。2回目の債務整理をするに至った事情を,債権者や裁判所に率直かつ具体的に説明できるようにしておきましょう。
目次
2回目の債務整理は可能なのか?
債務整理は原則として2回目以降も行うことができます。ただし,1回目より条件が厳しくなるケースや,1回目と同じ方法がとれないケースもあるため注意が必要です。
一度債務整理を行った後に,病気や怪我,天災など事情があって再び借金の返済が苦しくなることがあります。債務整理は法律的には何度でも可能ですが,一回目よりもハードルが高くなることが多いのが特徴です。手続き別にポイントをまとめると,このようになります。
【任意整理】
- 1回目と債権者が同じか,違うかで難易度が異なる
- 1回目と同じ債権者の場合,長期の和解が組めないなど和解条件が厳しくなることや,和解に応じてもらえないことがある
- 1回目と債権者が異なる場合は,通常の任意整理と同様
【個人再生】
- ハードシップ免責を受けられるかどうかで事情が異なる
- 給与所得者等再生における再生計画が遂行された場合の再生計画認可決定確定日,ハードシップ免責が確定した場合の再生計画認可決定確定日,破産免責を受けた場合における免責許可確定日から7年間以内は給与所得者等再生の申立ができない
- 再度個人再生の申立てができる場合でも,1回目の借金圧縮の効果は原状に復する
- 債権者から同意を得られない場合がある
【自己破産】
- 前回から原則7年以内は自己破産できない
- 前回と同じ理由だと免責が下りない可能性がある
- 手続きの費用や時間・手間が増える可能性がある
このように,基本的には条件が厳しくなります。また,1回目は任意整理で済んだものの,2回目は債権者と交渉が決裂し,個人再生や自己破産になるなど,2回目は手続きの方法を変えなくてはならないことがあります。
とはいえ,人生は何が起こるかわかりません。払いきれる予定だった借金がなんらかの事情で支払えず,「2回も債務整理を行うのはどうかと…」とためらっているうちに,借金の金額がどんどん膨らんでいってしまいます。
事態が大きくなる前に,専門家に依頼してアドバイスを受け,状況に応じて再度の債務整理を行いましょう。
2回目の債務整理で注意すべき点
2回目の債務整理で注意すべきポイントを,手続きの種類別に詳しく解説します。
【任意整理】
二回目の任意整理の場合,「相手方の債権者が同じかどうか」で手続きの難易度が違ってきます。債権者が同じで,再度の任意整理申し入れということならば,和解条件は厳しくなります。他方,別の債権者との任意整理であれば,1回目の任意整理と同じように話し合いができます。
(1)1回目と債権者が同じ場合
一度任意整理により利息カットやリスケジュール等の交渉をした後,それでも返済が苦しくなり,再び同じ債権者に任意整理を申し込む場合,減額交渉は難しくなります。すでに利息等のカットがされている場合は,基本的にそれ以上の減額は望めないでしょう。また,債権者が交渉に応じない可能性も高まります。
その場合は,裁判所を通じた手続きである個人再生や自己破産と言った手続きを,状況に応じて選択することになるでしょう。
(2)1回目と債権者が違う場合
1回目の任意整理で対象外とした債権者の場合や,1回目の任意整理で無事に借金を返済後,新たに別の債権者からの借金を抱えてしまった場合などが当てはまります。
この場合は,相手の債権者にとっては1回目の任意整理と変わりませんから,和解交渉も1度目と変わらない状態で行えます。
【個人再生】
個人再生の場合,「ハードシップ免責の条件に当てはまるかどうか」で事情が大きく異なります。
一回目の再生計画がスタートした後,病気や天災などのやむを得ない事情で借金の返済が続けられなくなったものの,既に再生計画の4分の3以上の額を支払い終えている場合,残りの借金の支払いが免除されることがあります。これをハードシップ免責(民事再生法235条)と言います。
【ハードシップ免責の条件】
①個人再生手続を行った再生債務者が,その責めに帰することができない事由により再生計画を遂行することが極めて困難となったこと
②再生計画で変更された後の基準債権等に対して4分の3以上の額の弁済があること
③ハードシップ免責の決定をすることが再生債権者の一般の利益に反するものでないこと
④再生計画の変更をすることが極めて困難であること
再生計画の変更もできず,ハードシップ免責の条件に該当しない場合は,再度の個人再生を行うか,他の債務整理を行うかを選択することになります。2回目の個人再生の注意点を以下にご紹介します。
前回の給与所得者等再生から7年間は同じ手続きがとれない
個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類の手続きがありますが,このうち「給与所得者等再生」を行った場合,7年間は2回目の給与所得者等再生をすることができません(民事再生法239条)。
これは,給与所得者等再生は債権者の同意がなくとも借金を減額できる手続きであることから,短期間に繰り返し手続きを取られると,債権者が借金を回収できなくなり問題が生じてしまうからです。
他方,小規模個人再生には,債権者の同意を得る手続きがあるので,このような規定はありません。したがって,7年経たなくても2度目の手続きが可能です。
1回目の借金圧縮の効果は原状に復する
1回目の個人再生計画の履行が完了する前に,再度個人再生の開始決定がされたときは,権利の変更がされた再生債権は現状に復します。1回目の個人再生よりも借金減額ができるわけではないので,現状の返済が苦しい場合,自己破産を検討したほうが現実的かもしれません。
債権者に承認されない場合がある
小規模個人再生の手続きでは,債権者の承認を得る手続きがありますが,2回目の個人再生の場合,1回目よりも債権者の承認を得にくくなります。
債権者の承認が得られない場合,2回目の個人再生手続は失敗します。それまで手続きに書けていた手間や費用が無駄になるので,債権者から承認が得られそうにない場合は,自己破産など他の手続きを検討したほうが良いでしょう。
【自己破産】
前回から原則7年以内は自己破産できない
自己破産の場合,前回自己破産をして免責を受けてから7年は再び自己破産をすることができません(破産法252条)。自己破産は借金を帳消しにする強制力の大きな手続きのため,短期間に何度も手続きをとることができないルールになっています。
また,1回目の債務整理で個人再生のうち給与所得者等再生手続をとった場合も,7年間は自己破産ができません。1回目の債務整理で個人再生を行い,ハードシップ免責を得た後7年間も同様です。
前回と同じ理由だと認められにくい
自己破産をする理由が1回目と同じだと,裁判所に「反省せずに同じ失敗を繰り返した」と判断され,免責が認められにくくなります。
特に,ギャンブルや浪費などの理由の場合は「免責不許可事由」といって,1回目の自己破産の際も慎重に審査されます。2回目の自己破産も同じ理由だった場合,審査の目はさらに厳しくなり,免責が不許可になる可能性が高まります。
手続きの費用や時間・手間が増える可能性がある
一回目の自己破産では,「同時廃止」という簡易な手続きで済んだ人でも,2回目の自己破産の場合は裁判所により厳しく審査されるため,「管財事件」という手間とお金のかかる手続きになる可能性が高まります。
自己破産の手続きは「同時廃止」と「管財事件」の二種類があり,裁判所がどちらの手続きにするかを決定します。
財産がなく免責不許可事由がないケースの場合は「同時廃止」になり,費用が少なくスピーディーな手続きになります。しかし,財産がある場合や,免責不許可事由の調査が必要な場合は管財事件に振り分けられます。
裁判所が「破産管財人」という弁護士を選任し,財産の管理・処分や破産に至った事情の調査等を行います。この破産管財人の報酬が必要なため,裁判所費用は同時廃止よりも高額になり,また調査のために時間も長くかかります。
2回目の自己破産の場合は,この管財事件に振り分けられる可能性が高くなります。
なお,管財事件となった場合,あらかじめ弁護士に自己破産を依頼しておくと,費用を抑えられる「少額管財」という手続きになります。そのため,2回目の自己破産をする場合は,事前に必ず弁護士に相談し,依頼しておきましょう。
債務整理の方法を変えることは有効か?
2回目の債務整理の際,1度目と同じ手続きがとれないケースがあるため,債務整理の方法を変更する方法は有効です。
一般的な債務整理の方法である「任意整理」「個人再生」「自己破産」は,順に借金の減額幅が大きくなり,また効果も強力になります。
例えば,1回目の任意整理で借金が返済できなくなった場合,2回目は個人再生や自己破産を選択する,1回目で個人再生をしてうまくいかなかった場合,2回目は自己破産をするといった,より強力な効果の手続きに変更することが考えられます。
逆に,1回目に個人再生でうまくいかなかったケースで2回目で任意整理をするなど,より効果の弱い手続きに変更することは難しい場合が多いです。(もちろん,収入が大幅に上がったなど特別な事情がある場合には可能です。)
手続きの変更は判断が難しいケースも多いので,弁護士に相談して方針を決定されることを強くおすすめします。
2回目の債務整理で債権者や裁判所へ伝えるべきこと
2回目の債務整理は1回目よりも債権者や裁判所の目が厳しくなっています。2回目の債務整理の必要性や妥当性を理解してもらうためには,事前に弁護士とよく打ち合わせをして,説得力のある理由を伝える必要があります。
再び返済が難しくなった事情や理由
病気や怪我,突然の天災,家族の介護など,やむを得ない事情の場合は認められやいのですが,返済が困難になった経緯や事情を具体的かつ正直に説明する必要があります。また,そうした事情を証明する書類を集めておきましょう。
返済をする意思があったが,やむなく債務整理に至ったこと
1回目の債務整理で減額された借金をきちんと返済する意思があったことを伝えます。実際に一定期間,返済をしていた証拠があると,認められやすくなります。
再び債務整理をしないための改善策
同じような事情で再び返済が困難にならないよう,債務者が努力や工夫をしていることを伝えることも大切です。仕事を増やしたり,家賃の安い部屋に引っ越したり,生活費を圧縮する工夫をしていることなどを伝えると良いでしょう。
東京弁護士会 登録番号 53737
困っている人を助けたい、という想いから弁護士を志しました。
女性でも相談しやすい環境をご用意していますので、お気軽にご相談ください。
【経歴】
明治大学法学部卒
明治大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(司法修習68期)