自己破産すると相続にどう影響する?

自己破産すると相続にどう影響する?

自己破産した場合,遺産相続はできるのか,自己破産が相続に与える影響を,自己破産の手続き前と手続き中,手続き後に場合分けして解説します。自己破産手続が終了している場合は,相続に影響はありませんが,手続き前や手続き中だった場合は,相続に影響が発生する可能性があります。自己破産による影響が相続に出ないようにする方法についてもわかりやすく解説します。

自己破産しても遺産相続はできるのか?

自己破産手続が終わった後に配偶者や親,兄弟姉妹が亡くなった場合,通常の相続人と全く同じように遺産相続ができます。自己破産したことが家族や親族にばれることもありません。しかし,自己破産手続をする前や,手続きの最中に親等が亡くなった場合,遺産相続に影響が出ます。

財産を持った人が亡くなると,配偶者,子や親,兄弟姉妹などに法律のルールに従って相続権が発生します。亡くなった人のことを「被相続人」,亡くなった人の遺産を相続する権利がある人を「相続人」と呼びます。

また,遺産相続がスタートする日を「相続開始日」と言います。基本的には亡くなった日が相続開始日となります。

自己破産が相続に与える影響はどういったもの?

自己破産をしても,手続きが完了していれば原則として相続に影響はありません。しかし,手続き前・手続き中だった場合は,被相続人が亡くなった日が裁判所による自己破産手続開始決定の前か後かで大きく状況が異なります。自己破産手続開始決定の前に亡くなっていた場合は,相続財産は,申立人の財産となりますので,原則として裁判所による換価・処分の対象となります。

◆手続き完了後であれば原則として影響はない

自己破産をした後に相続が発生した場合でも,手続きが既に完了していれば,過去に自己破産した事実は相続権や相続分に影響しません。相続人が相続できないケースとして,法律上「相続欠格事由」が定められていますが,自己破産は相続欠格事由にあたらないからです。

また,自己破産手続後に新たに得た財産は裁判所による処分換価の対象にならないため,受け取った遺産は心配なく自分のために所有し,あるいは処分することができます。

例外的に,被相続人が生前に「相続廃除」の申し立てをしていた場合は相続権がなくなることがありえますが,この申し立てが認められる確率は高くありません。

※相続廃除とは

相続排除とは,被相続人(亡くなった人)が「この人には相続権があるが,相続の対象にはしたくない」と考えた場合,生前に家庭裁判所で手続きをして,相続の資格を奪うことができる制度です。

相続廃除については,民法892条に定めがあり,被相続人に対し相続人が虐待をしたり,重大な侮辱を加えたり,その他の著しい非行があった場合について,例外的に認められます。

相続人が自己破産したケースについては,ただ自己破産をしたというだけでは,基本的には相続排除の理由としては認められません。

自己破産が相続廃除の理由になりうる場合としては,例えば,相続人である子供がギャンブルで多額の借金をした上に,被相続人である親にその返済を肩代わりさせるなど,借金によって被相続人に大きな迷惑をかけた場合には認められる可能性があります。

◆破産手続き前・手続き中だった場合の影響

自己破産手続をする直前や,手続きの最中に親等が亡くなり,相続が開始した場合は,そのタイミングによって相続財産を失う可能性があります。

ポイントは,「相続開始日(亡くなった日)が,裁判所による自己破産手続開始決定の前か後か」です。

自己破産手続中に被相続人が死亡し,相続が開始しても,破産手続開始決定が既に出ているのであれば,相続した財産は新得財産として手元に残すことができます。

タイミングごとにまとめると,以下のようになります。

自己破産する時期と相続財産への影響

(1)自己破産手続申立ての前に相続が発生

裁判所に自己破産手続を申し立てる前に被相続人が死亡し相続が発生した場合,相続人は相続財産を受け取ることができます。しかしながら,その後自己破産手続をとることで受け取った財産は裁判所によって処分・換価されてしまうので,事実上財産を失うことになります。

相続した財産で借金の全部ないし大半を返済することができ,自己破産をする必要がなくなれば,問題はありません。

しかし,相続財産を得ても自己破産が必要な程度に負債がある場合は,相続後に自己破産をすると,以下のデメリットが発生します。

デメリット①自己破産が認められない可能性がある

自己破産手続をするためには,裁判所に「支払不能」であると認められなくてはなりません。相続した財産が借金を完済するのに足らない金額であったとしても,仮に相続財産を借金返済にあてたとして,残った借金の額が分割返済可能と判断されれば,裁判所に「支払い不能状態ではない」と判断され,自己破産が認められない可能性があります。

デメリット②「同時廃止」ではなく「管財事件」になる

自己破産手続の際,処分すべき財産がなく,法律上の免責不許可事由にも当たらない場合は,「同時廃止」と言って,スピーディーで掛かる費用も少ない手続きで済みます。

しかし,換価処分が可能な相続財産を持っていると,「管財事件」と言って,裁判所が破産管財人という弁護士を選任し,財産の換価処分等を行う手続きになります。この場合,「同時廃止」よりも手間も時間もかかり,費用も高くなってしまいます。つまり,遺産を相続しなかった場合よりも,遺産を相続した場合のほうが,手続き上負担が多くなってしまうのです。

自己破産手続きの申し立て前のデメリット回避には「相続放棄」が有効な場合があります。後程ご紹介します。

(2)裁判所による自己破産手続開始決定前に相続が発生

裁判所に自己破産の申し立てをすると,1~2か月程度で破産手続開始決定がされます。この,「自己破産の申し立てから破産手続開始決定まで」の期間に被相続人が亡くなってしまうと,相続財産は「破産財団」に組み込まれ,裁判所が指定する破産管財人によって換価・処分され,財産は債権者に分配されます。

また,本人の財産状況だけなら「同時廃止」で済むはずが,「管財事件」になってしまい,より負担のかかる手続きになる可能性があります。

① 遺産分割協議への影響

自己破産手続開始決定前に相続が発生した場合,遺産分割協議が終わっている場合と終わっていない場合とで,影響が異なってきます。

遺産分割協議が終わっている場合

遺産分割協議が終わっており,破産者が一定の財産を受け取ることになった場合は,その財産は裁判所による換価・処分の対象になります。注意すべきは,話し合いによって「どうせ裁判所に回収されてしまうなら」と破産者が自分の財産の多くを他の相続人に譲ってしまった場合です。

自己破産において,破産者が債権者に分配されるべき財産を処分することは禁じられており,破産管財人が後から「否認権」を行使して,他の相続人に渡った財産を回収する可能性があります。

遺産分割協議が終わっていない場合

遺産分割協議中に自己破産手続開始決定がされた場合は,以降,破産者本人が遺産分割協議を進めることは出来なくなり,破産管財人が本人に代わって遺産分割協議を進めます。破産管財人が他の相続人と話し合いをした結果,破産者の分の相続財産は換価・処分の対象となります。

② 相続放棄は原則としてできない

自己破産手続開始決定前に相続が発生した場合,仮に申立人が相続放棄をしても,「限定承認」の効果しか生じません。限定承認とは,負債の遺産がある場合,現金や不動産などプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する手続きのことです。手元に残る財産がある場合は,裁判所による処分・換価の対象となる点は変わりません。

(3)裁判所による自己破産手続開始決定後に相続が発生

自己破産手続開始決定後に被相続人が亡くなり,相続が発生した場合は,自己破産の手続きと関係のない新たな財産として取り扱われます。そのため,破産者は相続財産をそのまま全額受け取ることができ,また自分の意思で自由に使用・処分することができます。

自己破産による影響が相続に出ないようにする方法や相続放棄

被相続人が亡くなったのが自己破産手続申立ての前であれば,相続放棄が有効な可能性があります。手続き申立て後から自己破産手続開始決定前の期間に相続が発生した場合に影響を抑えるのは難しいですが,「自己破産の申立てから破産手続開始決定まで」の期間をできるだけ短くする方法はあります。

(1)自己破産手続申立て前は「相続放棄」が考えられる

自己破産手続申立ての前に相続が発生した場合には,「相続放棄」が有効な場合があります。相続放棄とは,被相続人の財産や負債などの一切を引き継がずに放棄することです。相続放棄をすることで,財産は自分以外の相続人に相続されます。

相続放棄は相続開始を知ってから3か月以内に,被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で手続きを行う必要があるため,被相続人が亡くなった後はスピーディーに動く必要があります。

ただ,この場合には,遺産は一切手にできないことになります。破産手続き後に遺産を入手することもできません。その点もよく考える必要があります。

(2)自己破産手続き申し立て後は相続放棄できない

自己破産手続きを申立てた後,開始決定前に被相続人が亡くなってしまった場合は,相続放棄の手続きをとっても原則として限定承認の効果しか認められません。限定承認で受け取った財産は,裁判所によって処分・換価されることになります。

(3)申し立てから破産手続開始決定までの期間を短くする方法

自己破産は,申立てをしてから開始決定までの期間は,事案・裁判所によっても異なります。裁判所による処分の対象となる財産がなく,かつ,借金の原因がギャンブルや浪費ではない場合は,早めに開始決定が出ることが予想されます。近いうちに亡くなりそうな近親者がいる場合は,出来るだけスピーディーに申立てを行い,開始決定を得るのが最善の方法です。

しかしながら,借金の原因がギャンブルや浪費の場合や,持っている財産が多い場合は開始決定までに時間がかかることがあります。この場合でも,申し立てをしてから開始決定までの期間を短くできる可能性があります。

東京地裁では,「即日面接」と言って,管財事件(少額管財)の手続きを希望する場合に,破産手続開始申立てをした当日または申立日から休日を除く3日以内に,担当の裁判官と申立人が依頼した弁護士が面接を行うという制度です。即日面接の制度は,自己破産手続きを弁護士に依頼している場合のみ利用できます。この場合,即日面談後の翌水曜日の午後5時に破産手続開始がなされますので,申立てから開始決定までの間が短くなります。(開始決定をより早くする必要がある事案では,裁判所の判断により,これ以上に早まることもあり得ます。)

(4)申立て後,破産手続開始決定までの期間に取り下げは可能?

自己破産の申し立てをしてから,破産手続き開始決定までの期間に被相続人が亡くなってしまった場合は,申し立てを取り下げることも可能です。被相続人の財産が多いと予想され,受け取った遺産で借金を返済できそうな場合は,取り下げる選択肢もあります。
 ただ,東京地裁の場合には,原則としてなかなか取下げが難しい運用となっています。

また,この期間に一度取り下げてしまうと,当初思っていたより相続財産が少なく,やはり自己破産が必要だとなった場合,再度の申立てが難しくなることもありますので,申立ての取り下げは慎重に検討しましよう。

自己破産手続き前や手続き中に家族が亡くなった場合は弁護士に相談を

このように,自己破産手続きが既に終了していたり,手続き中であってもすでに開始決定が出ていたりする場合は相続への影響は心配いりません。しかし,自己破産手続前や手続開始決定前にご家族が亡くなった場合,最善の方法は破産者の置かれている状況によって異なってきます。

この場合は,既に依頼されている弁護士がいる場合には早急に相談をしてください。自己破産検討中であれば,法律家の無料相談を利用して,適切なアドバイスを受けられることをおすすめします。自己破産などの債務整理については,近年は多くの法律事務所が無料で法律相談を受け付けています。複数の法律事務所に相談をすることも可能ですので,気軽にご相談ください。