自己破産における免責とは?
自己破産の免責について解説します。自己破産の免責とは,裁判所が借金をした人の債務の支払義務を免除する制度で,自己破産手続の中で最も重要なプロセスです。免責が許可されてもすべての債務がゼロになるわけではなく,税金や社会保険料など免除されない支払いもあります(非免責債権)。また,免責が許可されない「免責不許可事由」がある場合も注意が必要です。具体的なケースについてまとめました。
目次
自己破産における免責とは?
自己破産における免責とは,簡単に言うと,裁判所に破産を申し立てた人が,原則としてすべての借金などの債務の支払義務を免れる手続きです。自己破産をして裁判所から免責許可決定が下りると,どれほど多くの借金を抱えていたとしても,以降は借金を返済しなくてよくなります。
※ここでは,お金を返す義務のことを債務,お金を返す義務を負っている人のことを「債務者」と呼びます。反対に,お金を受け取る権利のことを債権,債権を持っている人を債権者と呼びます。
「破産手続」と「免責手続」
「自己破産をすると借金がゼロになる」という言われ方をしますが,厳密に言うと,自己破産の制度は「破産手続」と「免責手続」の二つに分かれています。
「破産手続」とは,裁判所によって債務者の財産をお金に換えて,債権者に分配する手続きです。財産の処分を終えてもなお残っている債務については,「免責手続」を得ることにより支払義務が免除されます。
債務者が破産手続開始の申立てをした場合は,反対の意思を表示していない限り,同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます。実務上も,申立書書式は,破産手続開始の申立てと免責許可の申立てが一緒になっています。
「免責不許可事由」と「非免責債権」
免責が許可されないケースについては法律に定めがあり,「免責不許可事由」と呼ばれています。主に,ギャンブルや浪費が原因の借金や,自己破産手続にあたって不誠実な言動があったことなどが免責不許可事由に当てはまります。
免責が受けられなければ借金は帳消しにならず,引き続き借金を抱えて生きていかなければなりません。自己破産の手続きをした意味がなくなってしまいますので,免責は自己破産におけるもっとも重要な制度といえます。そのため,どのような場合に免責不許可事由となるか知っておくことは,自己破産手続を進める上で大切です。
また,免責によっても債務が免除されない債務もあります。「非免責債権」と呼ばれ,主に税金などが当てはまります。
支払義務の残る「非免責債権」とは?
非免責債権とは,裁判所による免責許可を受けても,消滅せずに支払い義務が残る債務のことです。代表的なものに税金や社会保険料などがあり,生活に困っているからと言って自己破産手続で免除してもらえるということはありません。(
非免責債権については,破産法253条1項に以下のように定めがあります。簡潔に言うと,税金や,悪意による不法行為の損害賠償請求権,養育費など,自己破産によって支払義務を免れることが社会的に見て許されないような債務に関しては,免責許可を経た後も支払義務が残ります。
【非免責債権】
① 租税等の請求権
② 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
③ 破産者が,故意又は重大な過失により,人の生命又は身体を害する不法行為をした場合の損害賠償請求権
④ 夫婦間の協力及び扶助の義務(民法752条)
⑤ 婚姻費用の分担義務(民法760条)
⑥ 子の監護に関する義務(民法766条)
⑦ 直系血族及び兄弟姉妹の扶養義務(民法877条~880条)
⑧ ④~⑦の義務に類する義務であって,契約に基づくもの
⑨ 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
⑩ 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
⑪ 罰金等の請求権
※滞納している税金が多い場合
現在,困っている債務のうち,大部分が滞納している税金という場合は,自己破産をする意味が薄くなります。また,税金等が支払えそうにない場合は,なるべく早めに税務署や市区町村に相談しましょう。分割納付や猶予制度などが利用できる場合があります。
自己破産における裁量免責
自己破産の際,ギャンブルが原因の借金など,免責不許可事由に当てはまるケースであっても,裁判官の裁量によって免責が認められることがあります。これを「裁量免責」と言います。
破産法は,252条1項で,免責不許可事由を列挙しています。また,252条2項において,「前項の規定にかかわらず,同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても,裁判所は,破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは,免責許可の決定をすることができる。」と,裁判官が様々な事情を考慮の上,裁量で免責許可を出すことができることを定めています。
実際には,免責不許可事由に当てはまる場合であっても,現実にはほとんどのケースで免責が許可されています。つまり,免責不許可事由に当てはまっていても,裁量免責により免責が下りるケースがほとんどということになります。もちろん申立前に,免責許可事由の該当性が大きい事案については,弁護士が個人再生へ方針変更を進めるなどといったことも実務上はあると思われます。
裁量免責のポイントは,「裁判官が詳しく事情を知る必要がある」ことです。そのため,免責不許可事由のある自己破産の場合は,原則として管財人の調査を経る「管財事件」という手続きに振り分けられます。
免責調査型の管財手続きとは
免責調査型の管財手続きとは,免責不許可事由がある場合の自己破産において,裁判所が裁量で免責を許可できるかどうか,詳しく調査するためにとられる手続きのことです。
「管財事件」と「同時廃止事件」
本来,自己破産手続は,管財事件が原則となります。管財事件とは,管財人が換価対象となる財産の管理や処分や債権者への分配を行うこと,裁判所が免責を許可してよいかどうか詳しく管財人が調査をすることの2点が大きな柱となります。
管財事件は,少額管財であっても,同時廃止事件より,20万円以上予納金は高くなります。
しかし,換価対象の財産がなく,免責不許可事由もないようなケースでは,同時廃止事件といって,管財事件より低コストで,簡易・スピーディーな手続きを取ることができる場合もあります。
自己破産における免責不許可事由の例
自己破産の免責不許可事由は,破産法252条1項に定めがあり,11の事由が列挙されています。
① 財産隠しや損壊(不当な破産財団価値減少行為)
② 自己破産すること前提で債務を負う行為(不当な債務負担行為)
③ 特定の債権者にだけ返済する行為(不当な偏頗(へんぱ)行為)
④ 浪費または賭博その他の射幸行為
⑤ 詐術による信用取引
⑥ 帳簿隠し(業務帳簿隠滅等の行為)
⑦ 虚偽の債権者名簿提出行為
⑧ 調査協力義務違反行為
⑨ 管財業務妨害行為
⑩ 過去7年以内の免責など
⑫ 破産法上の義務違反行為
ざっくりいうと,ギャンブルや浪費による借金が原因の場合や,自己破産直前に特定の債権者にだけ借金を返済したこと,自己破産手続の際に不誠実な言動があったことなどが,免責不許可事由となります。
ギャンブルや浪費による借金
過去にギャンブルや投資,無駄遣いをしたことがあっても,その額が収入や支出,借金などの全体の状況に照らして軽微であれば,免責不許可事由には当てはまりません。例えば,1年程度毎月1,000円程度宝くじを買っていたといった程度であれば,大きな問題にはならないでしょう。
しかし,宝くじやギャンブル,無駄遣いのために借金をしたり,生活費を大きく圧迫したりするほどの散財をしていた場合は,免責不許可事由とされる可能性が高くなります。
特定の債権者にだけ返済する行為(不当な偏頗(へんぱ)行為)
金融機関だけではなく,友人・知人・親戚等から借金をしていたり,勤め先から借金をしていたりする場合は,せめて他の債権者に優先して借金を返しておきたい,と考える人も多いと思います。
しかし,借金が支払不能だとわかっていて,自己破産を検討しているのに,特定の債権者にだけ優先的に弁済をしてしまうと,「偏頗弁済」として免責不許可事由に該当する可能性が高くなります。
その他の免責不許可事由について,詳しくは,「自己破産で免責不許可事由となるケースとは」をご覧ください。
自己破産で確実に免責を得るためのポイント
自己破産の際,確実に免責を得るためには,まず,「免責不許可事由」の内容を確認して,ご自身のケースが免責不許可事由に当てはまるかどうかを事前にチェックしてください。
特定の債権者にだけ返済する行為(偏波弁済)や,裁判官や破産管財人の調査を拒んだり,嘘の説明をしたりするなどの調査協力義務違反行為などについては,免責不許可事由になると知っていれば,事前に気を付けて避けることができます。
また,免責不許可事由がある場合や,自分がそのケースに当てはまるかどうか迷った場合は,弁護士に相談されることをおすすめします。
もちろん,最終的には,裁判所の判断とはなりますが,実務経験を積んだ弁護士であれば,過去の事案での裁判所の判断など,見通しがつきやすいケースもあります。
また,自己破産の免責不許可事由に当てはまる場合には,「個人再生」や「任意整理」と言ったほかの債務整理によって問題を解決したほうがベターなケースもあります。その場合も,弁護士の意見を聞きながら解決方法を選択したほうが良いでしょう。
弁護士にも得意・不得意がありますので,債務整理に実績のある弁護士に相談されることをおすすめします。借金に関する法律相談は,近年では多くの法律事務所が無料で応じています。
東京弁護士会 登録番号 53737
困っている人を助けたい、という想いから弁護士を志しました。
女性でも相談しやすい環境をご用意していますので、お気軽にご相談ください。
【経歴】
明治大学法学部卒
明治大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(司法修習68期)