個人再生ができる条件について
個人再生をするための条件についてまとめました。個人再生は,定期的な収入があり,住宅ローン付きの家や財産を守りたい人に向いています。
個人再生をするための条件
通常の再生手続の要件として,
①破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあること又は事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないこと
②再生手続開始の申立て棄却事由がないこと
が必要となります。
【小規模個人再生】
①②に加えて,
③再生債務者が個人であること
④再生債務者が将来継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること
⑤再生債権の総額が5000万円を超えないこと
★なお,小規模個人再生の場合,再生債権者の書面決議に付さなければならないため,半数以上の再生債権者又は基準債権額の総額の2分の1を超える債権額を有する再生債権者らが書面で不同意の回答をすると,再生計画は認可されません。
【給与所得者等再生】
①~⑤に加えて,
⑥給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり,収入額の変動の幅が小さいと見込まれること
⑦再生手続開始の申立ての際に給与所得者等再生を行うことを求める旨を申述したこと
⑧再申立ての制限に抵触しないこと
上記の条件を満たさない場合は,任意整理や自己破産といった他の債務整理を検討することになります。
個人再生は,基本的に財産を処分せずに,借金を5分の1~10分の1に大きく減額できる手続きです。個人再生手続きは,借金が帳消しになるのではなく,一部の借金が残るので,「減額後の借金をちゃんと支払いきれるか」が重要になります。
なお,ここでいう「債務」とは,借金やお金を支払わなければならない義務のことで,債務者とは借金等の返済をする義務がある人のことです。また,「債権」とはお金を返してもらう権利のことで,債権者とはお金を受け取る権利を持っている人のことです。
それでは,8つの条件について詳しく見ていきましょう。
①破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあること又は事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないこと
個人再生手続きなどの民事再生手続きを開始するためには,手続きを開始する原因となる,「支払不能」や「債務超過」になるおそれが必要です。簡単に言うと,約定の内容で借金の返済ができないほど借金が多い状況です。基本的には,自己破産を考えるほど借金の返済に困っている場合が想定されています
逆に言うと,借金がある場合でも,金策をすれば,生活に大きな支障なく借金の支払いが可能である場合は,個人再生手続きはできません。個人再生手続きは,債権者のお金を返してもらうという正当な権利を犠牲にして借金を大幅に減額する制度ですから,債務者側にも,減額をしてもらわなくてはならない事情が必要なのです。
借金に困っているけれども,個人再生や自己破産を検討するほど深刻ではない場合は,任意整理といって,弁護士が債権者と交渉して,将来利息などをカットしてもらう手続きがあります。そちらを弁護士と一緒に検討されると良いでしょう。
②再生手続開始の申立て棄却事由がないこと
民事再生法には以下の規定があります。
第二十五条 次の各号のいずれかに該当する場合には,裁判所は,再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
一 再生手続の費用の予納がないとき。
二 裁判所に破産手続又は特別清算手続が係属し,その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき。
三 再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき。
四 不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき,その他申立てが誠実にされたものでないとき。
この条文に反しないことが必要となります。
③再生債務者が個人であること
個人再生手続は,その名のとおり,再生債務者が個人である場合にしか利用できません。
④再生債務者が将来継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること
個人再生の「反復的・継続的な収入」については,必ずしもサラリーマンや正社員である必要はなく,減額後の借金の返済を続けていける程度の定期的な収入の見込みがあれば可能です。
・個人事業主
フリーランスや個人商店などの個人事業主の場合,必ずしも毎月まとまった収入があるとは限りませんが,④の条件を満たすほどの収入があれば,個人再生手続きを利用することは可能です。
しかしながら,事業を継続するには売掛金や買掛金などが日々発生し,財産も大きく変動することから,かなり慎重な検討が必要となるケースが多いです。
・アルバイト,非正規社員
パートやアルバイト,非正規雇用であっても,ある程度の期間継続して同一勤務先で勤務している場合などは,今後も引き続き雇用されることが見込まれるので,「反復的・継続的な収入」だと認められる可能性が高いです。しかし,アルバイトを短期間に点々としているような場合は,「反復的・継続的な収入」だとは認められないケースがあり得ます。
・年金受給者
年金受給者のうち,老齢年金又は退職共済年金の場合には,継続的な収入を得る見込みがあるといえ,条件を満たすでしょう。
一定の障害(身体障害,知的障害,精神障害)が生じたことを原因として支給される年金の場合でも,条件を満たすケースはあり得ますが,将来障害が軽減,あるいは消滅し,年金が受け取れなくなるケースもあり得るため,個別的な判断が必要になります。
⑤再生債権の総額が5000万円を超えないこと
再生債権の総額が5000万円を超える場合には,個人再生手続は利用できません。このような制限がある理由は,負債が大きい場合には,免除額も高額となり,債権者に与える不利益が大きくなることから,個人再生手続という簡素化した手続の利用を認めることは相当ではなく,会社などの法人と同じ通常の民事再生手続によるべきだと考えられているからです。
現実問題としては,再生債権が5000万円を超える個人の方であれば,自己破産手続きを検討することになるでしょう。自己破産には借金額の上限はないからです。
なお,住宅ローン付きのマイホームを残すための制度である,いわゆる「住宅ローン特則」を利用するかしないかで,「借金総額5,000万円」の範囲が違ってくることに注意が必要です。
5000万円要件では,①住宅資金貸付債権(いわゆる住宅ローンの金額),②別除権の行使により弁済を受けることが見込まれる再生債権の額,③再生手続開始前の罰金等は除外されます。
給与所得者等再生の場合には,以上の要件に加えて,以下の要件も必要となります。
⑥給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり,収入額の変動の幅が小さいと見込まれること
給与所得者等再生は,再生債務者の可処分所得の2年分以上の額を弁済する必要があるという条件により,再生債権者による再生計画案の決議が省略されています。したがって,この条件が設けられています。
⑦再生手続開始の申立ての際に給与所得者等再生を行うことを求める旨を申述したこと
この点は,申立書に記載をすれば足ります。
⑧再申立ての制限に抵触しないこと
民事再生法には以下の規定があります。
第二百三十九条
5 前項に規定する場合のほか,裁判所は,第二項の申述があった場合において,次の各号のいずれかに該当する事由があることが明らかであると認めるときは,再生手続開始の決定前に限り,再生事件を小規模個人再生により行う旨の決定をする。ただし,再生債務者が第三項本文の規定により小規模個人再生による手続の開始を求める意思がない旨を明らかにしていたときは,裁判所は,再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
一 再生債務者が,給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者に該当しないか,又はその額の変動の幅が小さいと見込まれる者に該当しないこと。
二 再生債務者について次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において,それぞれイからハまでに定める日から七年以内に当該申述がされたこと。
イ 給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ロ 第二百三十五条第一項(第二百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日
ハ 破産法第二百五十二条第一項に規定する免責許可の決定が確定したこと 当該決定の確定の日
給与所得者等再生は債権者の同意なしに債務の減少を認めることになるため,過去に破産免責等を受けた者に対して,短期間のうちに,給与所得者等再生の手続きを認めることはモラルハザードを招くおそれがあるため,このような規定になっています。
要するに,過去7年以内に個人再生や自己破産をしているケースで問題になりうるので,今回が初めての個人再生という場合は,特にこの条件について気にする必要はありません。
小規模個人再生と給与所得者等再生の違い?
上記のように,2つの個人再生手続きは要件が異なります。給与所得者等再生では,再生債権者による再生計画案の決議が省略されているため,反対の意見を持つ債権者がいた場合でも手続きを利用できる点が大きなメリットです。
小規模個人再生手続の場合,裁判所に提出した再生計画について,過半数の債権者から不同意とされた場合は,再生手続きが廃止となり,失敗してしまいます。
過半数の債権者の不同意とは,以下の二つのどちらか,あるいは両方に当てはまるケースのことを指します。
(1)債権者の人数の半分以上が不同意とした場合
(2)再生債権の総額の過半数に相当する債権を持っている債権者が不同意とした場合
小規模個人再生では,再生債権者による書面決議という手続きがあります。これは,債務者が作成して裁判所に提出した再生計画案について,債権を減額させられる立場の債権者に対し,その計画案に同意するかどうか問う手続きを指します。
債権者は,異議がない場合は返事をする必要はなく,異議がある場合だけ,裁判所の定めた期間内に同意しない旨を書面で回答するというルールになっています。
過半数の債権者から不同意があった場合は,個人再生ができなくなってしまいます。多くのケースでは,債権者も自己破産よりはましだと再生計画に同意してくれますが,最近では,会社の方針として異議を出す債権者もいますので,不同意が予想されるケースについては,給与所得者等再生手続きを検討することになります。
上記のように,給与所得者等再生の手続きは,小規模個人再生よりも多くの条件を満たす必要がありますので,いずれの手続きを利用した方がよいのかは,専門家に相談をすることをおすすめします。
個人再生が向いているパターン
個人再生は,(1)住宅ローン付きの家を失いたくない場合,(2)どうしても手放したくない財産がある場合,(3)自己破産をすると制限がある職業についている場合,などに向いています。
個人再生は裁判所を通して行う手続きで,家計簿の作成や財産の調査など,多くの手間暇がかかります。そのため,借金問題が比較的軽微であれば,裁判所を通さない手続きである任意整理のほうが,弁護士費用や書類収集等の負担が少なくて済みます。
また,特に守りたい財産などがない場合は,自己破産をしたほうが,借金が全て帳消しになるので,負担から解放されます。家財道具など一定の財産は自己破産をしても手元に残りますので,身包みを剝がされるわけではないので,過度な心配は必要ありません。
しかしながら,ローンを組んで自宅を購入しそのまま家に住み続けたい場合や,生活用品以外でどうしても手放したくない財産(保険や車など)があるケースでは,個人再生が適しています。
また,警備員や宅地建物取引主任者,生命保険の外交員,旅行業務取扱主任者などと言った一部の職業に関しては,自己破産をすると手続き中,一定期間,仕事ができなくなります。手続きが終われば,再び元の職業に就くことができますが,こうした影響なしに借金問題を解決したい場合は,個人再生手続が適しているでしょう。
東京弁護士会 登録番号 53737
困っている人を助けたい、という想いから弁護士を志しました。
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【経歴】
明治大学法学部卒
明治大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(司法修習68期)