個人再生の返済期間は原則3年 延長が認められるケースとは?

個人再生の返済期間は原則3年 延長が認められるケースとは?

個人再生の返済期間は原則3年ですが,最長5年まで延長することができます。個人再生の期間を延長する方法やポイント,注意点について詳しく解説します。個人再生手続きは,うまくいけば,債務額を大幅に圧縮できる点で,債務者に有利な手続となります。スムーズに進めるためには,実績のある弁護士に相談しましょう。

個人再生での通常の弁済期間

個人再生をした場合,返済期間は原則3年です。しかし,特別の事情がある場合には最長で5年まで期間延長が認められます。

民事再生法229条2項には,債務の支払いについて,返済期間の原則は3年と定められています。しかし,特別の事情があると裁判所に認められた場合は,3年を超える弁済期間を定めた再生計画案も認可されることがあります。

3年を超える場合が認められるのはどういう状況?

原則3年の返済期間を延長できる「特別の事情」とは,再生債務者に安定した将来の継続的収入の見込みはあるものの,その収入から再生債務者の生活費,子どもの教育費,家族の医療費などを差し引くと3年間では弁済総額を支払うことが困難な場合などを指します。

漠然と「3年では厳しいそうだから,5年だと助かる」という要望だけでは,延長は認められません。延長してもらうためには,裁判所に事情の説明をして納得してもらえるだけの具体的な理由が必要になります。

 比較的多い事例としては,返済予定期間中に子供も進学が控えていて一定の学費がかかる場合などがあります。

 逆に,毎月の収入からは余裕がない場合でも,年間の賞与の金額が比較的多く,賞与を含めて考えれば履行可能性を確保できる場合(昨今のコロナ禍の影響で,賞与については慎重に検討する必要はあります。)や,家計の支出のうち,調整可能な娯楽費・交際費の支出が多い場合には,期間の延長が認められない場合もあります。

【具体的な理由とは】

給与明細や家計簿といった具体的な資料に基づき,「返済期間が3年だと返済が困難だが,5年であれば支払いきれる」と言うことを裁判所に説明し,支払い期間延長の必要性を認めてもらう必要があります。

例えば,計画弁済総額が300万円であったとしましょう。毎月1回の返済を3年間続けて,36回払いした場合は,毎月約8.4万円を支払い続けることになります。しかし,予想される毎月の収入や賞与から,毎月の生活費などの支出を差し引いて,毎月返済可能な金額を算出したところ,毎月8万円までしか返済できないことが分かったとします。この場合,3年間の分割払いでは返済できませんが,5年間,60回の分割払い(毎月5万円)であれば返済が可能な見込みとなります。

返済期間の延長を認めるかどうかは,裁判所が判断しますが,具体的な根拠を出した上で延長を求めれば,認められる可能性はあります。

個人再生の返済期間は長い方が得?損?

個人再生の返済期間を延長しても,通常の借金の分割払いのように,利息で全体の返済額が膨らむことはありません。個人再生手続においては,開始決定日以降利息や遅延損害金などは原則カットされるからです。

なお,返済期間が長くなると,その分一か月あたりの返済負担額は減りますが,支払いが終了するのが先になり,経済的・心理的負担が長く続きます。そのため,3年で支払いきれる金額なのであれば,期間の延長はせずに進めた方が,良いかもしれません。

とはいえ,月々の返済可能額は慎重に算出することをお勧めします。再生計画案が認可された場合は,必ずその通りの金額を返済する必要があるため,支払い切れるギリギリの金額で月々の返済額を決定してしまうと,突然の災害や疾病などのトラブルで支出が発生した場合,返済が一気に苦しくなってしまいます。そのため,ある程度は余裕を持った返済金額に設定しておくことが望ましいです。

返済期間の最長期間はどれくらい?

再生計画の返済期間の延長は5年が最長で,これよりも返済期間を延長することは認められていません。

個人再生を行えば借金は大きく減額され,元の借金額の5分の1,金額によっては10分の1まで減額されるケースもあります。その代わり,減額後の借金はしっかりと返済しなくてはなりません。

しかしながら,返済期間が長期間にわたると,将来的な事故や病気,勤め先の破産やリストラなど,様々な理由により借金を返済できなくなるリスクが高まっていきます。そのため,返済期間は原則3年,最長でも5年とし,この期間内にしっかり支払いきれる見込みがある人に限って個人再生を認めるというルールになっています。

収入に対して負債額が大きく,最長5年の返済期間では,個人再生手続で減額されても支払いきれないという場合は,自己破産を検討することになります。自己破産手続をすると,非免責債権を除く借金は免責されて帳消しになります。その代わりに,一定金額以上の財産は手放す必要があります。

財産を没収されるというと,恐ろしいイメージがあるかもしれませんが,生活に必要な家財道具などは手元に残ります。何より,借金から解放されて心理的負担がなくなり,人生をリスタートできます。過度に心配せずに,専門家に相談してみましょう。

少額債権の弁済について

個人再生の手続きにより債務額が大きく減額された結果,分割払いをするには少額の債権者が発生することがあります。

例えば,複数の借金をしていて,個人再生により借金総額が5分の1に減額された場合,消費者金融Aから10万円の借金をしていたのであれば,弁済すべき金額は2万円になります。これを3年の36回払いで返済するとなると,月々の返済金額は約560円になります。振込手数料がかかることを考慮すると,分割払いは割が良くありません。

2万円程度の少額であれば,できれば一括で返済してしまったほうが,全体的に見て負担を軽減できます。こうしたケースにおいては,「弁済総額2万円以下の債権者については,初回返済時に一括で返済する」といった条項を盛り込むことも,実務上可能とされています。

少額と言っても,具体的にいくらくらいの債務であれば一括返済が可能なのかと言った判断には,その他の債務額との比較もありますので,実務の経験や知識が必要になります。

弁済中の期間延長について

再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは,再生債務者の申立てにより,再生計画で定められた債務の期限を延長(最終の期限から2年を超えない範囲)することができます。

「やむを得ない事情」とは,再生計画を作った時点では予想していなかったが,仮に予測できていたならば,毎回の弁済額をより低額にした再生計画案を作成したであろう事情と解されています。

 具体的には,勤務先の倒産等による失業・再就職で以前よりも給与額が減少した場合や,再生債務者本人や扶養家族の病気等により予想外に支出が増大した場合などが当てはまるとされています。

なお,弁済期間を変更しても,返済すべき金額の総額は変更できません。また,住宅資金特別条項の定めの変更については,否定的に解されています。

計画通りに借金が返済できないときは

失業などで収入が減少,または完全に無くなり,期間を延長しても弁済が難しい場合,「ハードシップ免責」という制度があります。①責めに帰すことができない事由により再生計画を履行することが極めて困難となったこと,②再生計画で変更された後の基準債権等に対して4分の3以上の額の弁済があること,③免責の決定をすることが再生債権者の一般の利益に反するものでないこと,④再生計画の変更をすることが極めて困難であること,という要件を満たす必要があります。

3年以上の弁済期間を認められるために弁護士に依頼すべき

個人再生の弁済期間を3年よりも長くできるかどうかは,どのような事情を裁判所に対してアピールしていくかということにも関わってきます。また,個人再生は,債務整理の中でも特に手続きが複雑なものとして知られています。制度上は個人でも手続きができますが,失敗を防ぎ,借金減額や弁済期間を債務者の希望にかなったものにするためには,弁護士に依頼されることを強くおすすめします。

弁護士と一口に言っても,医者と同じようにそれぞれ得意とする分野があります。債務整理について経験や実績を積んだ弁護士は,それだけ裁判所を説得するスキルを磨いているということです。

また,個人再生手続きを債務者に有利に進めるためには,弁護士としっかり連絡を取り合い,家計簿をつけることなど,弁護士からお願いされたことは面倒でも必ずしっかりやり遂げましよう。連絡と協力があって初めて,再生手続きをスムーズに,納得のいく形で進めることができます。

円滑な意思疎通のためには,債務者と弁護士の相性も大切ですので,個人再生をお考えの際は,複数の法律事務所に法律相談をされることもおすすめです。債務整理の場合,多くの法律事務所が相談料を無料としています。