カード破産はなぜ増えた?自己破産後の不利益について
クレジットカードが原因で自己破産する「カード破産」についてまとめました。
もっとも、自己破産はクレジットカードが原因でできた負債以外も対象ですので、法律上「カード破産」という用語があるわけではありません。しかし、最近はクレジットカードによる負債が主たる原因で自己破産をされる方も多くなっているため、便宜上「カード破産」という言葉で説明します。
カード破産の原因や最近の傾向、負債がどれくらいの金額であれば自己破産したほうがいいのか、カード破産ができない場合、カード破産後の生活の制限や注意点などについて、気になるポイントを概説します。
目次
カード破産とは
カード破産とは、一般的には、クレジットカードを使うことにより借金が膨らんで自己破産を行うことをいいます。クレジットカード利用で発生した債務を支払いきれなくなった場合は、法律上の要件を満たせば、自己破産の手続きをすることで借金の返済義務を免除してもらうことができます。
しかし、自己破産をすると、「一定額以上の財産が処分される」「一定期間、新たな借金やクレジットカードの利用ができなくなる」などの不利益が生じます。また、借金の原因によっては自己破産できないケースがあり、注意が必要です。
近年、オンライン決済の手段としてクレジットカードが便利なことから、使いすぎてしまい、カード破産やカード破産予備軍になる事例が増えていると言われています。
クレジットカードを使い過ぎて借金が苦しくなった場合でも、自己破産をせずに、任意整理など別の債務整理で解決できるケースがあります。自己破産は借金の返済義務がなくなる強力な借金解決の方法ですが、その分デメリットもあります。借金問題が大きくなる前に早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
カード破産が増えた背景
元々、クレジットカードは実際に財布から現金を取り出すのと違い、お金を使っている実感がないため、気楽に使いやすいという特徴があります。近年はこれに加え、オンラインショッピングの普及やコロナ禍によるキャッシュレス化、景気の低迷と言った要素が加わり、カード破産やカード破産予備軍が増えていると言われています。
①オンライン決済の普及
近年はインターネットで様々な買い物やサービスの利用、コンサートチケットの購入などができるようになりました。その際の決済手段として非常に便利なのが、クレジットカードです。
通信販売で決済手段として代金引換や銀行振り込みを利用すると、手数料を取られますが、クレジットカードの場合はそうした費用がかからず、さらにカードにポイントもたまるので、お得感があります。
また、商品やサービス、チケットの種類によっては、支払い手段がクレジットカード決済のみというケースもあります。
②コロナ禍によるキャッシュレス化
現金は直接手で触れるため、感染症対策のために決済方法をカードにする人が増えています。食品の宅配サービス等も、クレジットカード決済により現金のやり取りをせずに利用でき、衛生的で便利と言われています。
③景気の低迷
コロナ禍により景気が悪化し、収入が減少する人が増えています。生活に必要な費用をリボ払いで決済して凌いでいる人も多いことでしょう。リボ払い(リボルビング払い)とは、毎月の支払額を一定額に抑えることができるサービスですが、手数料が発生するため、支払総額が高額になり、毎月支払っているのに元本が全然減らない状態になることがあります。
④コロナ禍による消費行動の変化
以前は遊びに出かけて現金を使っていた人が、コロナ禍によりオンラインゲームや、競馬などのギャンブルにはまってしまうケースがあります。外出して現金を使っていた場合は財布に入っている金額しか使わなかった人が、オンラインではそうした縛りがないため、気がつくと大金を投じてしまうことがあるようです。
また、動画、映画、音楽などのサブスクリプションを利用する人も増えています。サブスクリプションは近年、ファッションや化粧品など様々な種類が登場しています。こうしたサービスを数多く契約することで、毎月の出費が増えてしまい、家計を圧迫することがあります。
カード破産しやすい人の特徴
・オンラインで使うお金が現実のお金という実感が持てない人
特に、コロナ禍で強いストレスを感じており、ストレス発散の手段として買い物やゲーム、サブスクなどに熱中している人は注意が必要です。
・複数のクレジットカードを持っている人
クレジットカードには利用限度額がありますが、比較的審査が緩く、限度額50万円といった比較的高額の限度額が設定されていることがあります。こうしたクレジットカードを複数持ち、それぞれを限度額まで使っていると、すぐに数百万円といった金額になってしまい、支払いきれなくなってしまうことがあります。
・クレジットカード以外にも複数の金融機関等から借金をしている人
借金額が多いと、返済に困ったときに別の業者から借金をして返済するという悪循環に陥ることがあり、これを多重債務といいます。多重債務となってしまった場合は、カード破産する一歩手前まで来ていると言えるでしょう。
カード破産はどのくらいの金額で検討すべき?
自己破産ができる負債の金額は特に決まっているわけではなく、収入状況や借金の状況などから、客観的に支払不能状況であれば、自己破産手続きを取ることができます。
借金やカード利用料金などの負債額が、利息をカットすれば3年~5年の分割払いで返済できるのであれば、任意整理を取ることが可能ですので、借金がこれより多い金額であれば、個人再生か自己破産を検討します。
大きな財産や持ち家がなく、手放して困る資産がない人の場合、借金の返済義務を免れることができる自己破産のほうが、メリットが大きいでしょう。
カード破産ができない場合があるって本当?
法律上の要件を満たせば、自己破産手続きの申立て自体は可能です。自己破産の際は、破産手続開始の申立てと同時に免責の申立てを行いますが、この免責というものがポイントです。免責とは、借金の返済を免除してもらうことを指し、通常、自己破産手続きを取る際には、免責許可決定を受けることを目的にしています。
しかし、誰でも免責を受けられるわけではなく、「免責不許可事由」に該当する事実がある場合、免責が下りない可能性もあります。上記のように、自己破産手続きをする意味は免責を受けることにありますので、免責が下りないことが予想される場合、「破産ができない」(=破産をしても免責が下りずに意味がない)という単語が出ることもあるでしょう。
「免責不許可事由」というのは、色々ありますが、債務の原因が浪費やギャンブルによるものである、という事案が多いでしょう。浪費とは、収入に見合わない高価な商品をたくさん買ったり、高額な支出をしたりすることですが、風俗店に通ったり、オンラインゲームに何百万円も課金することも浪費とされる可能性があります。また、ギャンブルには、競馬やパチンコのほか、株や暗号資産、FXなどへの投資が当てはまる可能性があります。
もっとも、免責不許可事由がある場合でも、絶対に免責が下りないというわけではありません。免責不許可事由に該当する事実の大小や、ご本人の反省の態度、現在の財産や生活状況等によって、裁判官が裁量免責の決定をする場合も実際には多くあります。(なお、この場合は、管財事件といって、管財人による調査を行うことが多いです。)
カード破産後の制限
クレジットカードが原因で自己破産をすると、主に以下の7つの不利益が発生します。中でも影響が大きいのは、「財産が処分される」「一定期間新たな借り入れができなくなる」「クレジットカード使用不可」の3つです。しかし、③④に関しては、借り入れやカードに頼った生活を脱却するきっかけになると、良い方向に捉えることもできます。
(ただし、以下のうちの一部は、自己破産手続き以外の債務整理の手続きでも生じる制約になります。)
①一定額以上の財産は裁判所により換価処分される
家電などの家財道具を除き、基本的に、20万円以上の価値のある財産は手放さなくてはなりません。自由財産拡張申立(財産を手元に残すことができる制度)という手続きがありますが、運用は裁判所によって異なりますし、100%残せるわけではありません。手放したくない財産がある方は、任意整理や個人再生も検討する必要があります。
②持ち家やローン中の住宅、カーローンやリース中の車も引き上げられる
基本的に不動産は手放さなければならないので、自分名義の持ち家に住んでいる方は引っ越しが必要です。この場合は、同居の家族には自己破産の事実が知られてしまうことは避けられないでしょう。
また、ローン返済中の車は、所有権留保と言って、所有権がローン会社などにあるため、弁護士に依頼をして受任通知を発送すると、車は引き上げられることになります。カーリースについても、自己破産によって契約が解除され、車は引き上げられてしまうことになります。
③5~10年の間、新たな借り入れができなくなる(ブラックリスト入り)
自己破産をすると、その後5~10年間、新たな借金ができなくなります。これは、「信用情報機関」という、個人のお金の貸し借りを記録する機関に、自己破産をしたという事実が載ってしまうからです。これを俗に「ブラックリスト入り」と言います。
ブラックリスト入りすると、ほとんどの金融機関や貸金業者は、「この人にお金を貸しても返してくれないかもしれない」と判断し、審査に落ちてしまいます。
信用情報機関の記録は、登録した金融機関や貸金業者などが、お金の貸し借りの際に融資審査のために見るためのものです。信用情報は、用途以外の目的でみだりに閲覧されることがないよう、厳格に管理されています。したがって、ブラックリスト入りしたことが原因で、同居していない家族や友人、会社に自己破産をしたことが分かってしまうことはありません。また、自己破産をしても、配偶者や家族の信用情報には影響がありません(家族が連帯保証人等になっている場合は除く)。
なお、弁護士に自己破産手続きを依頼してから免責決定が下りるまでの間に借入をすることは、(ブラックリスト入りするしないに関わらず)そもそも禁止となりますので、ご注意ください。
④クレジットカードは基本的にすべて使えなくなる
クレジットカード会社はクレジットカードの利用や更新の際、信用情報を確認するため、自己破産手続きをして免責決定が下りた後でも、クレジットカードが使えない状況が続きます。5~10年経ってブラックリストから消去されるまで、新規のカード契約も難しくなります。
⑤家族などの借金の保証人になれない
家族のローンや借金、子供の奨学金などの保証人になる際も、信用情報が閲覧されます。そのため、ブラックリスト期間中は保証人になることができません。
⑥官報に個人情報が掲載される
自己破産をすると国の広報誌である「官報」に名前や住所が記載されます。昔は、原則新聞のように官報を購入しなければ見ることはできませんでしたが、今はオンラインで見ることも可能になっていますので、絶対に誰にも知られないかというと可能性は0ではありません。しかし、日常的に官報をチェックしている人は、ごく限られた職業の人を除いてはなかなかいないと思いますので、過度に心配する必要はないでしょう。
⑦職業制限
弁護士や税理士などの士業や、警備員や生命保険の募集人など一部の職業は、自己破産手続中(「破産者」である期間)は仕事に就くことができなくなります。免責決定が確定すれば復権しますので、このような職業制限はなくなります。
カード破産しないために注意すべきこと2つ
①リボ払い・分割払いには注意する
リボ払いや分割払いは毎月決まった金額だけを支払えばいいので、家計を圧迫せず、窮地を凌ぐには心強い方法です。しかし、手数料がかかるため、支払総額が多くなってしまうことには注意が必要です。
リボ払いや分割払いはできるだけ避け、やむを得ずそうした場合でも、臨時収入があった場合は一括払いに変更して、早めに返済してしまうのがおすすめです。リボ払い・分割払いから一括払いへの変更方法は各カード会社によって異なります。一括払いできない場合、毎月の支払金額を増やすことで、手数料負担を軽減できるケースもあります。
②生活費を把握し、遊興費には予算を設定する
自分の収入から家賃や生活費など必要な費用を差し引き、「月○万円くらいだったら遊びに使っても大丈夫」というラインを割り出し、予算を大きく超えるような出費はしないようにしましょう。最近のクレジットカードはオンライン上で履歴を確認できますので、こまめにチェックされることをお勧めします。
クレジットカードはお金を使用している感覚が湧きにくくなりますが、代わりに消費行動を逐一記録してくれるというメリットもあります。したがって、1つのクレジットカードを使い、家計簿代わりに出費の様子を把握するという使い方もできます。
ご自身の収入と支出のバランスを確認しながら生活をすることが大切です。
クレジットカードが使えなくて不便?
①デビットカードを作成する
デビットカードとは、支払い代金が銀行口座から即時に引き落とされるカードです。銀行口座にお金がなければ利用できないため、クレジットカードのように手元にないお金を使ってしまうという危険性はありません。また、コロナ禍で現金を利用することに不安があれば、こういったカードを利用することを選択肢に入れてもよいでしょう。
デビットカードは、基本的には信用情報の審査はなく、ブラックリスト入りしていても作ることができる場合が多いです。最近では、クレジットカード機能がついたデビットカードもあるようなので、どういった内容かを確認した上で、ご自身の生活状況に合わせて選択されることをお勧めします。
②ブラックリスト経過後、信用情報機関の履歴を確認する
ブラックリスト期間である5~10年が経過したら、信用情報機関の自己破産の情報が消えているかどうかチェックされてもよいかもしれません。自分自身の信用情報は、3つの信用情報機関に開示請求をして確認することができます。
自己破産の記録が消えていたら、以前のように借金やクレジットカードの作成・使用が可能になりますが、計画的に利用をする必要がありますので、十分にご注意ください。
【日本にある信用情報機関】
・全国銀行個人信用情報センター(KSC)
https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/
・株式会社シー・アイ・シー(CIC)
https://www.cic.co.jp/
・株式会社日本信用情報機構(JICC)
https://www.jicc.co.jp/
東京弁護士会 登録番号 53737
困っている人を助けたい、という想いから弁護士を志しました。
女性でも相談しやすい環境をご用意していますので、お気軽にご相談ください。
【経歴】
明治大学法学部卒
明治大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(司法修習68期)