受任通知(介入通知)とは

受任通知(介入通知)とは

受任通知とはどういうものか,受任通知の効力についてわかりやすく解説します。受任通知とは,介入通知とも言い,弁護士に法律問題の解決を依頼した際,トラブルの相手方に対し,弁護士が代理人となったことを知らせる通知です。

債務整理の際は,貸金業者や債権回収会社からの督促や取り立てをストップさせる法的な効果を持ちます。受任通知の一般的な内容や,取り立て停止の根拠条文についても紹介します。

以下で,債務整理における受任通知について説明します。

受任通知(介入通知)とは

受任通知(介入通知)とは,債務整理を弁護士に依頼した際,弁護士が各債権者に発する通知(貸金業法 21条1項9号)のことで,これを受け取った債権者は以後,債務者と直接の連絡を取ることができなくなります。受任通知は「債務整理開始通知」と呼ばれることもあります。

借金を合法的に減免して,借金問題を解決するための手続きを「債務整理」と言い,「任意整理」「個人再生」「自己破産」などの手続きがありますが,いずれの手続きにおいても,弁護士と債務整理の委任契約を結んだ後,弁護士は各債権者へ対し,受任通知を発送します。

受任通知は,債務整理以外でも,離婚事件や交通事故の損害賠償請求事件など弁護士が法律トラブルの代理人となった時点で,争い事の相手方に送付されます。債務整理の際の受任通知は,一部の債権者に法的な拘束力をもつ点や,取り立てをストップできるという点で,特に重要な手続きとなっています。

受任通知の効力はどういったものか?

受任通知は,各債権者に対し,(1)「債務整理手続が開始したこと」と,(2)「弁護士が債務者の代理人となったこと」を知らせる効果があります。これに加え,受任通知では,(3)「債権者は債務者に直接の連絡しないようにしてください」と求めます。受任通知は,貸金業者や債権回収業者に対しては,ただのお願いではなく,法律上の強制力を持ちます。

債務整理の際の受任通知は,以下の2点について,特に重要な意味合いを持ちます。

(1)貸金業者や債権回収業者に対する法的な強制力

受任通知により,債権者や債権回収業者が債務者に直接連絡ができなくなる効果は,貸金業法や債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)によって規定されています。

・貸金業者とは…銀行ではないがお金を貸し付けている業者,いわゆるノンバンクのことです。消費者金融やクレジットカード会社がその典型例です。銀行はお金を預かることで貸し出し資金を調達しますが,貸金業者は銀行からの借り入れや,社債など他の手段で資金を調達します。

・債権回収会社とは…サービサーとも呼ばれ,金融機関から債権を譲渡され,金融機関の代わりに債権を回収する業者のことです。本来,債権の回収を行うことができるのは弁護士や認定司法書士だけですが,債権管理回収業に関する特別措置法の許可を受けた業者は,例外的に債権回収を行うことができます。

(2)債権者からの取り立てを直ちに停止させる

受任通知は,金融機関からの取り立てに悩まされている方には特に重要な手続きで,弁護士と正式な委任契約を結ぶだけで,しつこい取り立てや督促をストップできます。債権者が直接家を訪ねてきたり,電話をかけてきたりすることが無くなるのはもちろん,FAXや郵便と言った手段で連絡を取ることも禁止されます。

取り立てや督促がなくなることで,気持ちを落ち着かせて日常生活のペースを取り戻すことができ,将来の展望を描けるようになる人も多いです。

もっとも,債権者は訴訟を提起することはできますので,その場合には裁判所から,訴状等の書類が届きます。その後の手続きについては,弁護士に債務整理を依頼することで,対応を任せることが可能です。

※受任通知の債務者側の効果

受任通知の発送後は,債務者の側からも,債権者に直接連絡をしないように,仮に連絡があったとしても,何も話さないようにと弁護士から指示されます。以降,話し合いや交渉は全て弁護士を通じて行うことになります。

受任通知の効力の及ぶ範囲

受任通知により直接の取り立てが禁止される法的な効果が発生するのは,貸金業者と債権回収業者だけで,他の債権者に関しては,法的な強制力は発生しません。他の債権者とは,業者ではない一般の私人,取引先など一般の企業,銀行や信用金庫,リース会社などです。

とはいえ,受任通知を受け取った銀行や企業等は,ほとんどの場合,弁護士が間に入ったことで直接の取り立てを停止してくれます。借入したのが企業からであれば,受任通知後には取り立ての心配をする必要はないでしょう。

相手方が私人の場合は少々厄介です。一般人については,直接の連絡をしないことに法的強制力はないので,相手が感情的になっている場合は,受任通知を無視して直接連絡をしてくることがあります。連絡が来ても何も話さず,「すべて弁護士に依頼しているから,話があるなら弁護士に話してほしい」と答えましょう。

受任通知にはどういった事が書かれているのか

受任通知には,一般的には,受任通知の作成年月日のほか,弁護士の情報(事務所名,所在地,電話番号,FAX番号等)や依頼者の情報(住所,氏名,生年月日)のほか,「弁護士が債務整理を開始したこと」「取り立て行為の停止」「取引履歴の開示請求」と言った事項を記載します。また,「この受任通知は債務承認をする意思表示にはあたらないこと」「過払い金が発生している場合は過払い金を請求すること」と言った事項を書き添えることもあります。

受任通知に法律上定められた形式というのはなく,各法律事務所によって書き方は違っていますが,主な内容は大体次のようになっています。

【冒頭】

1.受任通知の作成年月日

2.弁護士の情報(事務所名,所在地,電話番号,FAX番号等)

【内容】

3.弁護士が債務者から委任を受けて債務整理を開始したこと

4.債務者本人や関係者に対し,今後一切の取り立て行為や直接の連絡の停止を求める

5.債務者との取引履歴をすべて開示するように求める

6.この受任通知は,時効の中断事由となる債務承認にはあたらないこと

7.過払い金が発生している場合は,過払い金を請求すること

【末尾】

8.依頼者の情報(住所,氏名,生年月日)

下記にて、上記の事項について詳しく説明致します。

5.取引履歴の開示について

弁護士が各債権者に情報開示を請求することで,債務の正確な額を割り出します。グレーゾーン金利が存在した時期からの借金があった場合は,違法な高金利の部分を,利息制限法の上限金利に引き直して計算を行い,過払い金の有無や金額を確認します。

取引履歴の開示は債務者本人も行うことができますが,弁護士が請求したほうが,債権者がより迅速に対応すると言われています。

6.受任通知が債務承認にはあたらないことについて

借金などの債務は,時効にかかると,それ以降,債務者はお金を支払わなくてもよくなります。ところが,時効が迫っている債務について,債務者が「債務があるので支払います」と認めてしまうと,時効がリセットされます。これを「債務承認」と言います。

受任通知が債務承認をした証拠とみなされないために,あらかじめ債務承認をする趣旨ではないと書き添えることがあります。

7.過払い金請求について

当該債務に過払い金が発生している可能性が高く,かつ,過払い金返還請求の時効が迫っている場合には,受任通知の段階で過払い金請求をする旨を書き添えることがあります。

受任通知によって取り立てが停止されるのは何故か?

弁護士の受任通知を受け取ると,貸金業者は貸金業法21条1項の規定により,債権回収業者に関しては,債権管理回収業に関する特別措置法18条8項により,それ以降,直接の取り立てや連絡などが禁止されます。これらの法律には罰則や行政処分等が設けられています。

債務整理の受任通知の法的拘束力は,個人再生や自己破産といった裁判所を通した手続きだけではなく,弁護士を介した私的な話し合いである任意整理の場合も発生します。

・根拠条文について

【貸金業法21条1項(取立て行為の規制)】

貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は,貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて,人を威迫し,又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。

<中略>

九 債務者等が,貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士若しくは弁護士法人若しくは司法書士若しくは司法書士法人(以下この号において「弁護士等」という。)に委託し,又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり,弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があった場合において,正当な理由がないのに,債務者等に対し,電話をかけ,電報を送達し,若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は訪問する方法により,当該債務を弁済することを要求し,これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず,更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。

【債権管理回収業に関する特別措置法18条8項】

8 債権回収会社は,債務者等が特定金銭債権に係る債務の処理を弁護士又は弁護士法人に委託し,又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとった場合において,その旨の通知があったときは,正当な理由がないのに,債務者等に対し,訪問し又は電話をかけて,当該債務を弁済することを要求してはならない。

弁護士が発する受任通知は,貸金業法21条1項9号に言うところの「その旨の通知」,および,債権管理回収業に関する特別措置法18条8項の「その旨の通知」に当てはまります。

どちらの法律の条文にも「正当な理由がないのに」という条件が付いています。これについては,弁護士から承諾がある場合や弁護士または債務者から弁護士に対する委任が終了した旨の通知があったときなどが該当しますので,弁護士が代理人についている間は安心してよいでしょう。

なお,債権管理回収業に関する特別措置法18条8項の条文では,直接の訪問と電話のみを禁止していますが,FAXや電報その他の手段で取り立てをされることも,通常は起こりません。

・罰則について

貸金業法21条1項に違反した場合の罰則については,同法47条の3の3号に定めがあります。

「二年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。」

また,貸金業法違反により,業務停止や貸金業法登録取り消しと言った行政処分を受けることがあります。登録が取り消されれば,貸金業をそれ以上続けることができませんから,企業にとっては,懲役や罰金と同等以上に恐ろしいペナルティと言えます。

債権管理回収業に関する特別措置法18条8項違反についても,業務停止,債権回収会社の許可の取り消しと言った,重いペナルティが発生することがあります。

受任通知の注意点

受任通知には,(1)法的強制力の及ぶ範囲(2)受任通知だけを弁護士に依頼することはできない(3)受任通知を受け取った場合,という3点の注意事項があります。

(1)法的強制力の及ぶ範囲

受任通知による直接の取り立て禁止が法的な強制力を持つのは,貸金業者と債権回収会社のみで,それ以外の債権者については,任意のお願いにとどまることには注意が必要です。

ほとんどの金融機関や企業は,受任通知により直接の取り立てを中止してくれますが,一般の私人相手の場合は必ずしも従ってくれないこともあり得ます。相手方が受任通知の文言に従わず,直接連絡を取ってきた場合は,話をせず,「弁護士を通して交渉をする」ということだけを伝えましょう。

また,貸金業者や債権回収会社であっても,裁判などの訴訟手続に関しては,受任通知の取り立て停止の効果は及びません。もっとも,受任通知を受け取った場合,状況にもよりますが,裁判を起こすことを待ってくれることもあります。

(2)受任通知だけを弁護士に依頼することはできない

受任通知は,あくまで債務整理手続の一部として弁護士が作成し,各債権者に発送されます。「弁護士に頼むとお金がかかるので債務整理はしたくないが,取り立てが厳しいので受任通知だけ発送してほしい」と言った方法は取れませんのでご注意ください。

債務整理を行うと,受任通知の送付による取り立ての停止のほか,任意整理では和解後の利息のカットなど様々なメリットが発生します。また,弁護士費用については,分割払いや後払いなどに応じてくれる法律事務所もあります。一人で抱え込まずに,無料の法律相談を利用して問い合わせをされることをお勧めします。

(3)受任通知を受け取った場合

弁護士から受任通知が届いた場合,まず内容をよく確かめ,わからないことがあれば受任通知を発送した弁護士の連絡先に問い合わせをしましょう。その内容から,自分一人で対応するのが難しいと感じた場合は,こちらも弁護士を立てる必要があるかもしれません。各法律事務所の無料相談や,お住いの市区町村などの地方公共団体が行っている無料法律相談,法テラス(https://www.houterasu.or.jp/)などを利用されるとよいでしょう。