個人再生はギャンブルが原因の借金でも可能

個人再生はギャンブルが原因の借金でも可能

個人再生手続においては,自己破産と違い,借金の原因そのものが不認可の事由とはなりません。しかし,個人再生手続の途中でギャンブルをすると,認可決定が下りない可能性が高まりますので,弁護士に依頼後はギャンブルをやめる必要があります。

個人再生の場合,原因がギャンブルであっても可能

自己破産と違い,個人再生は,借金をした原因が不認可の事由とはならないため,ギャンブルが原因の借金であっても手続きをすることができます。ただし,手続きを弁護士に依頼して以降は,ギャンブルはキッパリとやめる必要があります。

借金を減免する方法はいくつかあり,有名なのが自己破産です。自己破産をすると一定額以上の財産を失う代わり,借金の返済義務が免除されます。ただし,強力な手続きの分,制約も存在します。

その一つが,「免責不許可事由」という制度です。自己破産によって借金の返済義務が免除されることを「免責」といいますが,この免責が下りないケースが破産法に列挙されています。「ギャンブルや浪費が原因で作った借金」は,この免責不許可事由に当てはまります。

もっとも,ギャンブルや浪費が原因の破産でも,実際は多くの人が自己破産申立てにより免責されています。これは,免責不許可事由に当てはまる場合でも,裁判官が裁量により免責する「裁量免責」という制度によって免責決定をすることができるためです。

しかし,免責不許可事由がある場合,裁判所および管財人によって綿密に,時に厳しく調査や審尋が行われ,費用も多くかかります。不許可事由の軽重やそれまでの経緯によっては,裁量免責されない可能性もあります。

他方,個人再生は,「借金総額を金額によって5分の1~10分の1程度(もしくは清算価値の範囲)に大きく減額できる」というもので,借金をゼロにはできません。その代わり,自己破産のように借金を作った原因が不認可の事由にはなりません。

個人再生にも手続きが不認可になる事情がありますが,これには「ギャンブルや浪費が原因の借金」は含まれていません。

そのため,自己破産では裁量免責がおりるか不安がある場合は,個人再生手続きの検討をおすすめします。

ただし,個人再生手続の依頼中もしくは裁判所への申立後にもギャンブルをしてしまうと,認可決定が下りない可能性が高まりますので,個人再生手続きをすると決めた場合には,ギャンブルをきっぱりやめるようにしてください。

個人再生不認可事由について

個人再生が不認可になる事由については,民事再生法174条2項および第241条に定めがあります。以下では民事再生法174条2項について説明します。

【民事再生法第174条2項】
裁判所は,次の各号のいずれかに該当する場合には,再生計画不認可の決定をする。
一 再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し,かつ,その不備を補正することができないものであるとき。ただし,再生手続が法律の規定に違反する場合において,当該違反の程度が軽微であるときは,この限りでない。
二 再生計画が遂行される見込みがないとき。
三 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。
四 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。

再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し,かつ,その不備を補正することができないものであるとき。

再生手続きや再生計画案に重大な法律違反があって,不備が補正できないものである場合は,個人再生は不認可になります。とはいえ,補正が可能な軽微なミスであれば,必ずしも不認可にはつながりません。

事前に債務整理が得意な弁護士に依頼して打ち合わせをしながらきちんと手続きを進め,嘘をついたりしなければ,この項目に当てはまって不認可になることを心配する必要はないでしょう。

再生計画が遂行される見込みがないとき。

毎月の返済額が収入に対して多すぎるなど,履行可能性が無いと裁判所に判断された場合は不認可事由になります。

例えば,再生手続中もギャンブルを続け収入をつぎ込んでいた場合や,転職等で収入が大きく減ってしまい返済原資が確保できない場合にはこの不認可事由に当てはまるおそれがあります。

再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき。

小規模個人再生手続の場合,債権者の決議という手続きがあり,債権者の過半数が再生計画に不同意を示した場合は,再生計画が認可されなくなります。この際,債権者をだましたり,脅迫したりして不同意の意思表示をさせなかった場合は,不正があったとして不認可事由になります。

再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。

個人再生の際,法律に定める「最低弁済額」のルールに則り返済計画を立てますが,再生計画が最低弁済額のルールを守っていない場合は,「再生債権者の一般の利益に反する」とされ,再生計画不認可となります。

その他個人再生の申立てが認められないケース

個人再生手続きを行う際,以下にあてはまると,個人再生の申立てが認められなくなりますので,注意が必要です。

(1)個人再生申立ての条件を満たさないとき
(2)民事再生法第25条に定める「再生手続開始の条件」を満たさないとき
 など。

(1)個人再生申立ての条件を満たさないとき

個人再生手続きには,小規模個人再生および給与所得者等再生の2つがありますが,いずれの手続きにおいても,申立ての条件を満たす必要があります。

(2)民事再生法第25条に定める「再生手続開始の条件」を満たさないとき

また,民事再生法第25条には,「再生手続開始の条件」として,申立てを棄却するケースについて列挙しています。

【民事再生法第25条 再生手続開始の条件】
第二十五条次の各号のいずれかに該当する場合には,裁判所は,再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。
一 再生手続の費用の予納がないとき。
二 裁判所に破産手続又は特別清算手続が係属し,その手続によることが債権者の一般の利益に適合するとき。
三 再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき。
四 不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき,その他申立てが誠実にされたものでないとき。

これらのケースに当てはまると考えられるときは,個人再生手続き以外の債務整理を検討したほうが良いでしょう。

自己破産と個人再生,どちらが良いのか?

自己破産をすれば借金の返済義務が免除される一方,個人再生は借金が減額されるにとどまるため,基本的には自己破産を選択したほうがメリットが大きいと言えます。ただし,以下に当てはまる場合は,個人再生をしたほうが良いでしょう。

(1)ギャンブルや浪費など,自己破産の免責不許可事由に当てはまる場合
(2)住宅ローンの残っている住宅やその他自己破産では残せない財産を手放したくないとき
(3)自己破産手続中に制限される職業の場合

(1)ギャンブルや浪費など,自己破産の免責不許可事由に当てはまる場合

ギャンブルや浪費が主な原因で借金を作った場合,自己破産よりも個人再生のほうが良いケースもあります。それ以外の免責不許可事由がある場合も同様です。

自己破産の際,免責不許可事由に当てはまる場合でも,裁判所に「裁量免責」を得ることにより免責されるケースもあります。しかし,免責不許可事由があると,原則として「管財事件」と言う手続きになり,破産管財人により,綿密な調査がなされ,その分費用もかかります。

免責不許可事由の程度や事情,借金の金額などにもよりますが,個人再生手続をとったほうがスムーズに,費用も安く済ませられる可能性があるのです。(※個人再生の場合でも,個人再生委員に対する費用がかかる場合もありますので,一概には言えません。)

(2)住宅ローンの残っている住宅やその他自己破産では残せない財産を手放したくないとき

住んでいる持ち家がまだ住宅ローン支払いの途中だった場合,個人再生手続をとれば,マイホームに住み続けながら借金を圧縮することができます。

ただし,この場合は,住宅ローンだけは個人再生による減額の対象外となるので,ローンの残額を全額支払わなくてはなりません。住宅ローン債権者との協議により,住宅ローンの返済計画の見直しができる場合もあります。

また,親の形見の骨とう品など,どうしても処分されたくない財産で,自己破産では手元に残せないほどの価値がある物がある場合,個人再生によれば財産を守れます。守りたい財産が高額だった場合,借金の減額幅が少なくなり,個人再生手続によるメリットがほとんどない場合もありますので,詳しくは弁護士に相談してください。

(3)自己破産手続中に制限される職業の場合

警備員や生命保険の募集人,宅地建物取引士といった職業は,自己破産手続き中に資格制限を受けて仕事ができなくなります。職場に頼んで配置を変えてもらうことが可能ならばいいのですが,そうした融通が利かない場合や,職場に自己破産をしたこと自体を知らせたくないケースもあるでしょう。

個人再生には,自己破産のような資格制限が存在しないため,仕事を変えずに手続きを行って借金を減額できます。

個人再生依頼中にギャンブルをしてしまった場合どうすべきか

個人再生依頼中にギャンブルをしてしまった場合,すぐに弁護士に打ち明けましょう。個人再生手続の最中にギャンブルをしてしまうと,最悪の場合は個人再生手続きに失敗することがあります。

個人再生においては,家計簿や通帳の提出が求められます。生活に必要のないことに多額のお金をつぎ込んだ形跡はすぐに見つかってしまいます。

裁判所は,「減額された借金をきちんと3~5年の分割払いで支払えるかどうか」を確認し,この人ならば計画通り支払えるだろうと判断した場合に再生計画を許可します。ギャンブル癖や浪費癖があり,かつ,直すつもりがないと判断されると,再生計画通りの返済ができないと判断され,再生計画が許可されなくなります。

もっとも,弁護士に依頼後,ギャンブルをしてしまい,個人再生手続の申立て前にやめた場合であれば,手続きを開始することが可能な場合もあります。この場合も,再びギャンブルをしてしまったことを真剣に反省し,以後ギャンブルをしないことを弁護士に約束しなくてはなりません。そうすれば,裁判所もギャンブルによる家計圧迫のおそれが低いと判断して再生計画を許可する可能性があります。

しかし,この場合でも,ギャンブルにお金を使って財産を目減りさせた分,残っている財産にギャンブルで浪費した額を清算価値として計算して,返済計画を定めないといけなくなる場合があります。

いずれにせよ,債務整理を行うほどお金に困っているときに,ギャンブルにお金をつぎ込むのは絶対にやめてください。それにより,弁護士との委任契約が解除されることもありますし,そもそも個人再生手続を取ることができなくなってしまう場合もあります。
生活を立て直して明るい人生を歩むためにも,ギャンブルをやめる決意をしましょう。