自己破産の復権とは 種類と手続きについて

自己破産の復権とは 種類と手続きについて

自己破産の復権とは,自己破産による職業や資格の制限が消滅する制度です。自己破産手続を開始したあとの復権の種類と手続きについて解説します。基本的には,自己破産の免責許可が下りれば当然に復権しますが,他の復権の方法もあります。代表的な資格制限を受ける職業や,復権したかどうかを確認する方法,信用情報についても概説します。

復権とは?

自己破産の復権とは,自己破産手続により破産者に課せられた権利や資格の制限を消滅させ,自己破産前の状態に回復させる制度のことです。

自己破産をすると,破産者にはいくつか法律上の制限が課せられます。そのうち,最も影響が大きいのは,一部の資格や職業に就くことが制限される「資格制限」です。

例えば,弁護士や司法書士などの士業,生命保険の外交員,警備員などの仕事は,自己破産手続をとると,一定期間,仕事をすることができません。

しかも,この資格制限は自己破産手続が終了しただけでは消滅しません。そのため,資格制限から回復するための復権という制度が設けられています。

とはいえ,復権のことを難しく考える必要はありません。なぜなら,自己破産手続により免責許可決定を得られれば,ほぼ自動的に復権するからです。

免責とは,借金の返済義務を免除する手続きで,自己破産をする全ての人が目指しているゴールです。現実には,自己破産手続をする人のほとんどが無事に免責許可決定を得られていますから,正直に誠実に手続きを行えば,通常は免責許可決定とともに復権できますので心配いりません。

復権できなくて困るのは,自己破産手続をしたのに,免責許可決定を得られなかった場合のみと覚えていてください。

注意が必要なのは,免責決定により復権しても,お金を借りる際の信用情報がすぐに回復するわけではないことです。自己破産をすると信用情報機関にブラック情報として10年程度記録が残ってしまいますが,これを復権により消滅させることはできません。

自己破産で資格制限される職業や資格とは

自己破産の申し立てを行い,破産手続開始決定が出ると,破産を申し立てた人は「破産者」になります。破産者は一定期間,主に他人の財産や秘密を取り扱う職業や資格に就くことが出来ません。

制限される資格や職業については,破産法ではなく,それぞれの資格や職業を規律する法律に定めがあります。例えば,行政書士法第2条には,「行政書士となる資格を有しない」者について列挙されており,第2条の2に「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」と記載されています。

資格制限が発生する資格や職業について,主なものをご紹介します。他にもありますので,ご自身の職業が当てはまるかどうかは,事前に調べることをおすすめします。

  • 貸金業の登録(貸金業法律第6条)
  • 行政書士(行政書士法第2条の2)
  • 警備員(警備業法第14条)
  • 公認会計士(公認会計士法第4条)
  • 質屋営業の許可(質屋営業法第3条)
  • 司法書士(司法書士法第5条)
  • 社会保険労務士(社会保険労務士法第5条)
  • 生命保険募集人(外交員)(保険業法第279条,第307条)
  • 税理士(税理士法第4条)
  • 弁護士(弁護士法第7条)
  • 旅行業の登録(旅行業法第6条)

また,自己破産により影響を受ける職業に取締役などの会社の役員があります。会社の役員が自己破産をすると,役員を退任する必要があります。これは,民法第653条の規定で,会社と役員が結んでいる委任契約が自己破産により終了するとされているからです。

しかし,自己破産により退任した役員も,もう一度株主総会で選任されれば復帰できます。破産者であることは,役員の欠格事由ではないからです。

復権の類型

自己破産の復権には,「当然復権」と「申立てによる復権」の二種類があります。復権の中で最も重要な免責による復権は,当然復権に当たります。

(1)当然復権

当然復権とは,法律に決められた事由が発生した場合,当然に復権が認められるケースのことをいいます。破産法255条に定めがあり,4つのパターンのどれかに当てはまるなら,特に手続きをしなくても当然に復権します。

【破産法255条】
第1項 破産者は,次に掲げる事由のいずれかに該当する場合には,復権する。次条第1項の復権の決定が確定したときも,同様とする。
① 免責許可の決定が確定したとき。
② 第218条第1項の規定による破産手続廃止の決定が確定したとき。
③ 再生計画認可の決定が確定したとき。
④ 破産者が,破産手続開始の決定後,第265条の罪について有罪の確定判決を受けることなく10年を経過したとき。

① 免責許可決定の確定

自己破産した人のほとんどがこのパターンで復権します。自己破産には,「同時廃止」と「管財事件」の二種類の手続きがありますが,通常は,自己破産の開始決定から3~4か月程度となります。管財事件になった場合は,内容によってはこれより伸びることもあります。

②債権者全員の同意により破産手続廃止の決定が確定

借金等の債権者が全員同意をすれば,自己破産の手続きを廃止することができます。この場合,「破産をした」という事実自体が消滅するため,廃止が確定した時点で復権します。

とはいえ,債権者が同意をして自己破産手続が廃止となるのは,破産者が債務の全額を返済する目途が立った時など特殊なケースといえるでしょう。お金に困っているからこそ破産手続を開始するのですから,この条文が当てはまるケースは滅多にありません。

③ 再生計画認可決定が確定

自己破産手続の際,免責不許可事由があったことにより,免責許可が下りる見通しが立たない場合,個人再生の手続きに切り替えることがあります。

個人再生とは借金を5分の1~最大10分の1程度に大幅に削減する手続きです。自己破産のように免責で借金が消滅することはありませんが,免責不許可事由というルールもないため,自己破産で免責許可が下りない場合でも借金を圧縮できる可能性があります。また,自己破産のように職業を制限されることもありません。

この場合,再生計画の認可決定が確定した時点で復権します。

④ 破産手続開始の決定後10年が経過

免責許可が下りなかったとしても,自己破産手続開始から10年が経過すれば,当然に復権できます。

ただし,このパターンの復権は破産法265条の「詐欺破産罪」で有罪判決を受けていないことが前提となります。

詐欺破産罪とは,自己破産手続の際,自分が所有する財産が換価処分されて債権者に分配されないために,財産を隠したり壊したりする行為などが当てはまります。

こうした行為により有罪判決を受けると,10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金,もしくはこの両方が課されるうえ,自己破産手続開始から10年経過後の当然復権もできなくなります。

有罪となった場合のペナルティは重いので,自己破産手続の際は包み隠さず正直に財産状況を申告するようにしましょう。

(2)申立てによる復権

自己破産手続で免責されなかった場合でも,破産者が借金を完済した場合,裁判所に申し立てることにより復権できます。

すべての債権者に債務を全額返済しても,それだけでは裁判所は債務が無くなったことを知ることは出来ませんから,復権するための手続きとして裁判所への申し立てが必要になります。

申し立てによる復権は,相続で大金が入ったり,宝くじに当たったりするなど,例外的にまとまったお金が得られたケースでのみ問題となります。

復権の効果・解除される制限

復権すれば,破産による資格制限がなくなり,再び資格を使った仕事ができるようになります。破産法255条2項には,「復権の効果は,人の資格に関する法令の定めるところによる」とあり,具体的には弁護士法や司法書士法など,その職業を規律する法律に書かれています。

ともあれ,「資格制限が消滅する」と覚えておけば大丈夫です。

復権したかを確認する方法

原則として,復権した場合でも,裁判所から特に通知などはありません。ほとんどの人が免責により復権しますので,「免責許可確定=復権」との理解で問題ありません。

免責許可決定が出ると,裁判所から書面が発行されます。この書面に記載された日付から1か月程度経過すると,免責許可が確定します。確定した日から自動的に復権でき,自由に仕事をすることができます。

ただし,免責不許可事由により免責が下りなかったケースなどで,自分が復権したかどうか,確実にはわからない場合もあります。その際は,本籍地がある市区町村役場で身分証明書を取得すると,自分が破産者にあたるかどうかが確認できます。一般的には,1通300円程度の手数料で取得できるようです。

例外的に,「申立てによる復権」を行った場合は,復権が認められた際に裁判所から判決書などが届き,復権したことがわかります。

復権後の信用情報はどうなるか

復権はあくまで職業上の資格制限が解除されることなので,自己破産により信用情報機関に残った情報が復権で消えることはありません。

信用情報機関とは,個人のお金の貸し借りの記録を保管する機関のことで,日本には「株式会社シー・アイ・シー(CIC)」「株式会社日本信用情報機構(JICC)」「全国銀行個人信用情報センター(KSC)」の3つがあります。

全国のクレジットカード会社や銀行,消費者金融などは,この3つの信用情報機関のいずれかに加盟しており,消費者から新規の借り入れ申し込みや,クレジットカードの作成・更新依頼などがあった場合は,信用情報機関の記録を参考にしてお金を貸すかどうかを決定します。

信用情報機関に,自己破産したというネガティブな情報が残っていると,新規の借り入れやクレジットカードの利用が難しくなります。情報が残る期間は信用情報機関によっても異なりますが,5年~10年保管されます。これを俗に「ブラックリスト入り」と言います。

自己破産でブラックリスト入りすることは避けることが出来ません。既定の期間が経過すれば,記録は削除され,自己破産前のように借り入れやクレジットカードの作成・利用ができるようになりますので,時間が過ぎるのを待ちましょう。

資格制限以外に自己破産手続で制限されることがある?

自己破産時の手続きの種類によっては,資格の制限以外にも,引っ越しや旅行,出張などの制限や,郵便物が破産管財人に転送されるなど,いくつか不便な点が生じます。

このような制限は,自己破産に2種類ある手続きのうち,同時廃止には存在しません。裁判所が,財産の処分や詳しい調査の必要性があると判断し,管財事件となった場合にのみ制限があります。
(同時廃止の場合でも住所・本籍・氏名の変更は,裁判所へ届出が必要となります。)

  • 住所の変更や,宿泊を伴う旅行には,事前に裁判所の許可が必要になります。(破産法37条)
  • 破産管財人に対し,破産に関して必要な説明をしなくてはなりません。(破産法40条)
  • 所有している不動産,現金,有価証券,預貯金その他裁判所が指定する財産の内容をすべて開示しなくてはなりません。(破産法41条)。
  • 手続き中に届く郵便物は,すべて破産管財人に転送されます。(破産法81条1項)。
  • 破産管財人による免責についての調査に協力しなくてはなりません。(破産法250条2項)

これらのルールに違反した場合,免責不許可事由となる可能性があるので注意が必要です。

上記の制限は,自己破産手続が終了するとともに自動的に消滅します。資格制限のように,免責されなければ制限が残ってしまうことはありません。

資格制限を受けずに債務を減らす方法

資格制限のある職業に就いていた場合,自己破産をすると,申し立てから3~6ヵ月程度,資格を使う仕事をすることができなくなります。企業に勤めている場合は,雇用主に相談して,その間は別の業務をさせてもらうなどの対応をお願いすることも可能ですが,個人営業の場合は休業せざるを得なくなります。

資格制限を受けずに借金を減らす方法としては,「任意整理」と「個人再生」があります。どちらも借金の返済義務を全て免れることはできませんが,負担を減らすことが可能な場合がほとんどです。

任意整理は,弁護士と債権者が私的に交渉して,利息や遅延損害金を免除してもらう方法です。借金の元本は原則として支払わなくてはなりません。

個人再生は,裁判所を通した手続きで,借金総額を5分の1~最大10分の1にまで減額できます。ローン返済中のマイホームやその他財産を手放さなくて済む反面,手続きには手間と時間がかかります。

このように,資格制限のある職業に就いていても,借金の負担を減らすことはできますので,法律事務所の無料法律相談に問い合わせされることをおすすめします。