自己破産すると残せない財産がある?
自己破産した際,換価の対象になる財産と,手元に残せる財産について詳しく解説します。自己破産手続きをとると一定の価値のある財産(不動産や骨とう品の高価なものなど)は管財人により処分・換価されることになりますが,生活道具を処分されたりはしません。
また,既に債権者に給与を差し押さえられている場合は,自己破産によって強制執行をストップできます。
目次
自己破産した場合の換価対象は何か?
自己破産をすると財産を差し押さえられ,裁判所に没収されてしまうというイメージがありますが,実際は全ての財産が換価対象となるわけではありません。
自己破産をした際に換価対象となるのは,主に以下の財産です。
- 99万円を超える現金
- 合計残高が20万円を超える預貯金
- 20万円を超える価値のある財産(不動産や高級車,貴金属,骨とう品など)
- 解約返戻金額が20万円以上の場合の保険
- 支給見込額の1/8が20万円以下の場合の退職金 など
また,上記以外のものでも,自由財産拡張によって,財産が手元に残せる場合もあります。
全国の多くの裁判所では,自己破産の際に換価対象となるのは,時価20万円を超える財産としていますが,管轄の裁判所によって,自由財産拡張の運用などが異なるので,正確なことは,弁護士などの専門家に相談してください。
※例えば,東京地裁の場合,評価額が20万円以下であっても,株式などの財産は,残せないことがほとんどです。
生活に必要な家財道具や家電,パソコンや携帯電話などは,高額なものでなければ,基本的には換価対象とはならず,手元に残すことができます。
※対象となるのは破産した本人の財産のみ
債務者の所有ではない家族の財産は手続きの対象になりません。例えば,夫婦で住んで家の所有権が夫のみにある場合,妻が自己破産をしても,夫の財産である家には影響しません。
もっとも,他人名義の財産であっても,自己破産する人が実質的にはお金を出捐している場合には,自己破産する人の財産とみなされる場合もあります。
※退職金について
退職金は,当面退職の予定がなく,退職金が現実化しない場合は,退職金見込額の1/8が20万円以上の場合,換価の対象となります。
既に退職金を受け取っている場合は,それは,現金または預貯金として扱われます。
自己破産をすると財産が差し押さえられるのか?
「自己破産により財産が差し押さえられる」と一般的に言われますが,これは正確な表現ではありません。
自己破産をすると,一定の価値がある財産は,裁判所が選任する破産管財人の指示に従って換価し,処分しなければなりません。そのことから「自己破産=財産の差し押さえ」と誤解されていますが,これは差押えという手続きとは異なります。
「財産の差し押さえ」とは,借金などの支払いが滞った場合に,お金を貸している貸金業者や金融機関などの債権者が,お金を回収するために,裁判所を通して行う手続きです。給与や財産などが差し押さえられた場合は,借金の返済に充てられます。
むしろ,債権者によって給与や財産の差し押さえがされた場合は,自己破産手続きをとることによって差し押さえを中止できることがあります。借金の滞納で給与などを差し押さえられそうな場合は,早めに自己破産などの債務整理に詳しい弁護士に相談しましょう。
差し押さえ対象にならない財産は?
自己破産をした際に換価対象とならないのは,主に以下の財産です。
- 生活に必要な道具(家具や衣類,家電,寝具など)
- 99万円以下の現金
- 合計残高が20万円未満の預貯金
- 解約返戻金額が20万円未満の場合の保険
- 電話加入権 など
(1)自動車やバイク
自己破産の処分対象となる財産としてよく取り上げられるのは,「自動車やバイク」ですが,これらの財産も中古品としての価格が20万円を下回るのであれば,手元に残すことが可能です。
新車として購入しても,高級車や人気の車種を除けば,多くの車やバイクが購入後5年以上経過することで20万円以下の価格になることが多いので,不安な方は,一度専門店に査定に出してみると良いでしょう。
ただし,カーローンやバイクローンを返済中の場合,あるいはリースで借りていた場合は,通常は車やバイクの所有権はローン会社などに残っているため,自己破産をするとローン会社などに引き上げられてしまいます。
(2)家電,家具など
家電や家具なども,高価なものでなければ,原則として手元に残すことができます。
いずれにしろ,売却した場合の評価額が20万円を超えるかどうかが,換価対象となるかどうかを判断する基準になります。
自己破産による換価処分があると誰かが家に来て手続きをするのか?
自己破産による財産の換価処分を行うために,破産管財人やそのほかの人が家に来ることは原則としてはあまりありません。
破産管財人とは,破産する人に財産がある場合に,財産の管理や処分を行う,裁判所が選任する弁護士のことです。
ただし,以下のケースにおいては,破産管財人が自宅を訪問することがあります。
(1)不動産など高価な財産を正確に査定する必要がある場合
(2)借金の理由が浪費による場合(生活状況の調査含む)
(3)「財産隠し」を疑われた場合
(1)不動産など高価な財産を正確に査定する必要がある場合
債務者に家や土地などの不動産,骨とう品やブランド品,貴金属,絵画など高価な財産がある場合は,破産管財人が直接,家や土地までやってきて調査することがあります。
(2)借金の理由が浪費による場合
自己破産の原因が浪費による借金の場合,どんなものを買ったのか,生活の状況などの調査のために,破産管財人が自宅に立ち入る可能性があります。
(3)「財産隠し」をしていると疑われた場合
例えば,20万円以上する財産があるのに,破産手続きの際に申告をしなかったり,事前に家族の名義に書き換えたりすることが,「財産隠し」に当たります。財産隠しが疑われるケースでは,破産管財人が家に来て調査することがあります。
財産隠しが発覚すると,免責が認められない「免責不許可事由」となり,最悪の場合は破産法の「詐欺破産罪」に問われます。
免責が認められないと,借金が帳消しになりません。したがって,破産者は,財産を処分されるうえに,抱え込んだ多額の借金を支払い続けなければなりません。
財産隠しが判明した場合のペナルティは非常に重いものです。借金から解放されるためには,下手に隠そうとせず,ありのままを素直に申告することが大切です。
処分する財産がない場合はどうなるのか
自己破産者が市場価値20万円を超える財産を持っていない場合は,自己破産をしても財産が処分されることはありません。この場合,「同時廃止」と言って,管財費用もかからず,比較的期間も短縮できる手続きで済む場合があります。
自己破産には「管財事件」と「同時廃止」の2種類の手続きがあります。
「管財事件」は主に財産がある人向けの手続きで,裁判所から指定された破産管財人が手続きに参加します。財産がないケースでも,債権者が多い場合や,免責不許可事由に該当する場合(借金の理由がギャンブルや浪費などの場合)は,管財事件として破産管財人が詳しく調査することもあります。
しかし,人によっては20万円を超える財産がなく,借金の理由も生活苦や病気,整理解雇など,裁判所から見て詳しい調査を必要としないケースもあります。そのような場合は,破産管財人を選任しない「同時廃止」という手続きが取られます。
ご自身の自己破産手続きが「管財事件」に当たるか,「同時廃止」に当たるかは,費用やスピードの点でかなりの違いがありますので,自己破産を検討中の方は一度専門家に相談されることをおすすめします。
既に債務者に財産が差し押さえられていた場合は?
自己破産手続きの前に,既に借金の債権者から給与や財産などが差し押さえられていた場合は,自己破産の手続きが「同時廃止」か「管財事件」かどうかで扱いが異なります。どちらにしろ,自己破産手続きにより,差し押さえを中止または取り消しすることができます。
(1)同時廃止事件
破産者に財産がなく,同時廃止手続きとなった場合,同時廃止決定(破産開始決定)がされてから免責決定が確定するまでの間,差し押さえられた給与や財産を受け取ることができません。
しかし,免責決定がされるまでの間も,勤務先が給与相当額の金額を供託所に供託するか勤務先において保管します。免責許可決定が確定すると,破産者には供託された給与を受け取ることができます。
もっとも,上記の手続きは,執行裁判所に対しての手続き(強制執行の中止の上申,強制執行取消の上申)が必要です。
(2)管財事件の場合
管財事件の場合は,破産手続開始決定以降,給与の差押えは中止となり,差押えが効力を失うため,給与全額を受け取れるようになります。実際には,破産管財人が,執行裁判所に対して手続きを行います。
このように,手続きによって違いはありますが,差し押さえは自己破産によって中止,あるいは取り消しをすることが可能です。
財産を手元に残すことは可能なのか?
以上のように,原則として20万円以下の財産は手元に残りますが,住宅などの不動産や高価な財産をどうしても手元に置いておきたい場合は,自己破産以外の債務整理手続きを行うことで,財産を手元に残しつつ借金の負担を軽減することができます。
【財産を手元に残せる債務整理】
(1)任意整理
借金の負担が比較的少なく,借金の元本を3~5年の分割払いで返済しきれるケースならば,任意整理が可能です。
任意整理とは,弁護士に依頼して債権者と私的に交渉し,利息のカットやリスケジュールなどをしてもらう手続きです。借金の大幅な減額は期待できませんが,裁判所を通さないため,簡易な手続きで済み,財産を処分されることもありません。ローン中のバイクや車などについては,任意整理の対象外とすることで,維持することができます。周囲に知られる可能性もほとんどありません。
(2)個人再生
住宅ローン中の家や財産などを残しつつ,借金全額を5分の1程度,借金額によっては最大で10分の1程度に大幅に減額できる手続きです。裁判所を通した手続きで,複雑な手続きのため,通常は弁護士に依頼する必要があります。将来にわたる継続的な収入があり,どうしても手放したくない住宅や財産がある場合は,個人再生による債務整理によって財産を守ることができます。
(1)任意整理にしろ(2)個人再生にしろ,減額された借金を引き続き支払っていく手続きですので,将来にわたる収入源が必要となります。病気などで働けず,収入のあてがない場合は自己破産を選択することになります。
差し押さえが不安な場合はどうすれば良い?
自己破産をした場合,自分のケースでは何が処分対象となり,何が手元に残せるのか心配な場合は,弁護士事務所などの法律相談に相談されることをおすすめします。自己破産などの相談の場合,多くの法律事務所では無料で相談することができます。
自己破産は財産を没収されてしまう恐ろしい手続きというイメージがありますが,実際は生活用品や20万円以下の預貯金など,多くのものは手元に残すことができます。
そもそも,自己破産は,手続きを取ることにより借金苦から解放されて,人生をリスタートするための法的な手続きですので,過度に恐れる必要はありません。また,ケースによっては自己破産以外の債務整理ができる可能性もあります。借金の返済が苦しい場合,まずはお気軽に専門家にご相談ください。
東京弁護士会 登録番号 53737
困っている人を助けたい、という想いから弁護士を志しました。
女性でも相談しやすい環境をご用意していますので、お気軽にご相談ください。
【経歴】
明治大学法学部卒
明治大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(司法修習68期)