自己破産したら退職金はもらえるのか

自己破産したら退職金はもらえるのか

自己破産した場合の退職金の取り扱いについて,「退職金を受け取った後の場合」「退職金を受け取っていない場合」「退職の予定がない場合」に分けて解説します。また,自己破産をするための退職金見込額証明証の取得方法や,自己破産しても差し押さえの対象外となる退職金についてまとめました。「自己破産した場合,退職金も没収されてしまうのか」「全額もっていかれてしまうのか?」という疑問にお答えします。

自己破産した場合の退職金の取り扱い

自己破産をする際,退職金がある場合は,退職の予定の有無や,退職金をすでに受け取っているかどうかによって,退職金がいくらくらい受け取れるのかが変わります。

自己破産をすると,それまで背負っていた借金などの債務をゼロにできますが,代わりに,一定額以上の財産は裁判所によって処分され,債権者に配分されます。一定額以上の財産とは,原則として,20万円を超える財産のことです。

退職金も,裁判所による換価処分の対象となりますが,働いた成果として得られるお金なので,例外的な取り扱いがされます。退職金の4分の3に相当する金額は,差し押さえが禁止されています(民事執行法152条2項)。また,退職金の取得時期や,退職の予定があるかどうかによっても,処分対象となる金額が変わってきます。

自己破産は退職金の金額には影響しますが,自己破産をしたからといって退職をする必要はありません。警備員など,資格職の一部には自己破産手続き中に働くことを制限される職業がありますが,手続きが終われば復職することが出来ます。

また,自己破産の際は原則として裁判所に「退職金見込額証明証」を提出する必要があります。

※財産の有無による二種類の手続き~管財事件と同時廃止とは

自己破産については,手続きは財産の有無により,大きく「管財事件」と「同時廃止」の2種類に分けられます。

・財産がある場合~管財事件

処分が必要な財産がある場合は管財事件となり,裁判所が「破産管財人」という,破産手続きの専門家を選任して財産の換価や処分を行います。

・財産がない場合~同時廃止

裁判所の処分が必要な財産がない場合は同時廃止となり,破産管財人は選任されず,低コストでスピーディーな手続きとなります。

このように,原則として財産の有無で手続きが決まるのですが,ギャンブルによる借金の場合など,裁判所が詳しい調査が必要だと判断した場合や自営業の場合などは,財産がなくとも管財事件になることがあります。

退職金を受け取った後の場合

退職金をすでに受け取っていた場合,「退職金」という枠組みではなく,受け取った後の一般的な現金や預貯金として取り扱われます。

つまり,受け取った退職金を現金として保管している場合は「現金」として,銀行等に預けてある場合は「預貯金」として取り扱われます。

東京地方裁判所の取り扱いでは,現金や預貯金は,原則,以下のようなルールで処分されます。

  1. 現金が99万円以上ある場合:99万円を超えた部分の金額が処分される
  2. 残高が20万円を超える預貯金:預貯金の全額が処分される
  3. 複数ある銀行口座等の預貯金残高の合計が20万円を超える場合:全ての預貯金が処分される

自己破産を検討している方の中には,「勤め先に破産したことがばれないように,先に退職して退職金をもらってから破産しよう」とお考えの方もいることでしょう。しかし,退職金を受け取った後に自己破産をすると,金額によっては退職金のほとんどを失うケースもありますので注意が必要です。

※受領済の退職金を消費している場合

既に受領済の退職金を消費している場合は,何に使ったのかを裁判所に報告する必要があります。高額の退職金を特定の債権者に弁済したり,あるいは賭け事や浪費に使ったりしたケースでは,財産がなくとも管財事件になる可能性が高いです。また,既に費消した金額について,財団に組み入れをする必要が出てきたりしますので,注意が必要です。

いずれにせよ,自己破産を検討されている方は,退職金を受け取るタイミングについては慎重に検討されることをおすすめします。

退職金を受け取っていない場合

近い将来退職する予定があるか,または退職しているがまだ退職金を受け取っていない場合は,退職金の4分の1が破産財団を構成します。簡単にいうと,退職金の4分の1が取られてしまう,ということです。残りの,退職金の4分の3を受け取ることができます。

退職金が240万円だった場合は,60万円が破産財団を構成し,退職した人は残り180万円を受け取ることができます。

これは,退職金が給与と同じ性質をもつと考えられていることから,支払い前で金額が決定している給与の4分の1が差し押さえられるのと同様に,金額が決まっている退職金も4分の1が差し押さえ対象となるからです。

差し押さえ対象となる退職金の額が20万円未満の場合は,処分の対象になりません。つまり,退職金の額が80万円未満の場合は,その4分の1の金額は20万円未満なので,退職金全額を受け取ることができます。

退職の予定がない場合

当面在職する予定で,退職の予定がない場合,将来支給されるかに不確実性を伴うことを考慮して,差し押さえ対象の4分の1に,さらに2分の1を乗じて,8分の1が破産財団を構成するとされています。

「今すぐ(正確には,破産手続開始決定時)に退職した場合の退職金の額」を調べ,その金額の8分の1が取られてしまうということになります。「退職金見込額証明証」の作成を勤め先に依頼することで正確な金額を出してもらえます。
退職金見込額が240万円だった場合は,裁判所によって30万円が差し押さえを受けます。

近い将来退職する場合と同様,差し押さえ対象となる退職金の額が20万円未満の場合は,処分の対象になりません。つまり,退職金の額が160万円未満の場合は,その8分の1の金額は20万円未満なので,破産手続上は特段財産の処分には影響しません。

※退職予定がないのにどうやって差し押さえるの?

もちろん,退職する予定がないのに,勤務先から退職金の一部を前払いしてもらう必要はありません。多くのケースでは,退職金見込み額の8分の1にあたる金額について,その後の給料・賞与などから積み立てを行い,現金で財団に組み入れるという方法を取ります。給料からの積み立てが難しい場合には親族から援助してもらうなど,何らの方法で相当額を用意する必要があります。

自己破産をするための退職金見込額証明証の提出について

自己破産をする場合には,原則として「退職金見込額証明書(退職金計算書)」の提出が必要になります。勤め先に依頼して作成してもらい,提出します。勤務先によっても異なりますが,経理課や総務課などに依頼して作成してもらうことが多いようです。

とはいえ,勤め先に依頼すると,「何のために作成するのか」と尋ねられることがあります。「自己破産を予定しているからです」とは言いにくいので,予めほかの理由を考えておくとよいでしょう。例えば,以下のような理由が考えられます。

  • ファイナンシャルプランナーに将来の資金計画について相談するため
  • 住宅ローンの審査に必要なため
  • 家族のローンの保証人になることになり,審査に必要なため

勤め先に退職金見込額証明書の作成をお願いしても応じてもらえなかったり,作成を依頼するのが難しかったりする場合は,就業規則などと共に従業員向けに発表されている「退職金規定」を確認してみましょう。退職金規定には,退職金の支給対象者や退職金の計算方法などが記載されており,通常は従業員も自由に閲覧することができます。

自己破産で処分対象とならない退職金

会社によっては,自社で退職金を支払うのではなく,中小企業退職共済制度や小規模企業共済制度といった制度を利用し,他の機関から退職金を支払うケースがあります。こうした機関からの退職金は法律上の差し押さえ禁止財産にあたるため,裁判所による処分の対象になりません。また,従業員が自主的に在職中に一定金額を積み立てて,退職後にお金を受け取る確定拠出年金や確定給付企業年金についても,法律により差し押さえが禁止されているため,自己破産による処分の対象外となります。
具体的には,以下のような退職金が差し押さえ禁止財産となります。

  • 確定拠出年金
  • 確定給付企業年金
  • 中小企業退職共済制度による退職金
  • 小規模企業共済制度による退職金 など

ご自身の退職金がどこから支払われるものなのかは,就業規則で確認されることをお勧めします。
※なお,上記のような差押禁止財産がある場合,その他の財産の自由財産拡張の判断に影響が出ることがあります。

自己破産すると会社を退職しなければいけない?

自己破産をしても会社を退職する必要はありません。自己破産するというと,もう普通の人生は送れないのではないかと怖がる人もいます。しかし,実際のところ,自己破産の制度は,借金苦から解放されて再び経済的に健全な人生を送るための制度ですので,自己破産をするからと言って仕事を奪われてしまうことはありません。

また,会社も自己破産したことを理由に従業員をクビにすることは出来ません。そのような解雇は不当解雇にあたる可能性があります。

ただし,警備員や保険の外交員など,一部の職業の資格については,自己破産手続中に資格を利用した仕事をすることが法律によって禁止されています。しかし,この場合も,自己破産手続が進んで無事に免責許可が確定すれば,資格制限は解除され,元の仕事に復帰できます。

退職金がない場合にも証明は必要?

原則として,正社員として一定年数企業に勤めている場合は,当該企業に退職金制度がない場合にも「制度がないこと」を証明する書類の提出が必要です。しかし,勤続年数が短い場合や,非正規雇用の場合,また,自営業やフリーランスなどの場合,退職金証明に関する書類の提出は必要がないこともあります。

(1)勤務先に退職金の制度がない場合

退職金の制度がない勤め先であっても,制度がないことを証明することが必要です。
勤め先に退職金がないことを証明する書類を作ってもらうか,就業規則に退職金制度が定められていないことを示して証明する方法が一般的です。

(2)非正規雇用や勤続年数が短い場合

また,退職金制度のある企業でも,派遣社員やパート・アルバイトの場合は退職金が出ないのが原則なので,退職金に関する書面の提出が不要なケースが多いです。ただし,雇用形態を確認するための雇用契約書や労働条件通知書に退職金の有無について記載されているため,そちらを提出することもあります。

まとめ

自己破産をした場合,退職金については,金額や退職予定の有無,支払いのタイミングによって処分される金額が異なってきます。もっとも,退職金の金額が少ない場合や,中小企業退職共済制度や小規模企業共済制度などによる退職金などの場合は,自己破産手続では処分対象とならず,手続き終了後に退職金した場合に退職金全額を受け取れるケースがあります。

ご自身の退職金が処分対象となりそうな場合は,出来るだけ手元に残る退職金を多くするためにも,一度退職金受け取りのタイミングについて,弁護士に相談されることをお勧めします。
 
 また,退職金の処分対象額が高額となるケースでは,自己破産ではなく,個人再生が適しているケースもあります。

債務整理の場合,近年では多くの法律事務所が無料での法律相談に応じています。ケースによっては自己破産をしなくて済む場合もあるので,一度問い合わせされることをおすすめします。