自己破産ができない場合とは 失敗するケースと対処法まとめ
自己破産に失敗するケースと対処法について解説します。自己破産できない理由は大きく分けて,(1)支払不能ではない(2)免責不許可事由がある(3)非免責債権が多い,の3つです。また,資格制限のある仕事の場合は,自己破産をしないほうが良い場合もあります。
それぞれの具体的な内容と,対処方法についてまとめました。自己破産できないケースでも,借金の解決法はありますので,諦めずに専門家に相談しましよう。
目次
自己破産ができない理由
自己破産ができない理由としては,大きく分けて以下の3つがあります。
- 支払不能ではない=債務が支払えること
- 免責が不許可となるケースに当てはまること(免責不許可事由)
- 税金などの非免責債権が債務の中心であること
自己破産は,免責許可決定を得ることにより,合法的に債務の支払いを免れることができる強力な借金解決方法です。しかしながら,効果が強力な分,誰でも簡単に自己破産ができると,社会一般のお金の貸し借りのシステムが乱れてしまいます。そのため,自己破産をすることができる要件が定められています。
例えば,借金があっても,十分な収入があって支払い切れる状態であれば,自己破産はできません。
また,ギャンブルや浪費による借金は,場合によっては自己破産ができないことがあります。(正確には,自己破産の申立て自体は可能ですが,免責許可決定が下りないことがある,ということになります。)
自己破産の申立てに際して,財産を隠す,裁判所の指示に従わないなどの不誠実な態度も免責不許可事由の1つになります。
また,債務の大半が税金などの非免責債権だった場合も,債務の支払義務が残ることから,自己破産に失敗するというより,自己破産してもあまり意味がないということになります。
加えて,自己破産手続き中に資格制限がかかる仕事の場合は,自己破産をしないほうがよいケースもあります。
自己破産ができないケースについて,詳しく解説していきます。
※用語解説(自己破産の場合)
- 債務…借金などのお金を支払う義務
- 債務者…お金を支払う義務を負う人
- 債権…借金などのお金を受け取る権利
- 債権者…お金を貸した人など,お金を受け取る権利のある人
自己破産できない理由(1)債務が支払えること
自己破産は,借金の返済が不可能になっている状態,すなわち支払不能でなければ認められません。破産法15条には,以下のように定められています。
破産法
(破産手続開始の原因)
第十五条 債務者が支払不能にあるときは,裁判所は,第三十条第一項の規定に基づき,申立てにより,決定で,破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは,支払不能にあるものと推定する
支払不能かどうかは,裁判所が判断します。支払不能の定義については,破産法2条11項に規定があり,「債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態」を指しています。
ざっくりいうと,裁判所が客観的な立場から債務者の状況を見て,「あなたは借金の支払いができない状態ですね」と判断することです。収入や金額について,明確な基準があるわけではありませんが,次のような内容を考慮して,支払い能力の有無を判断します。
- 債務総額とその内容
- 資産総額とその内容
- 債務を負担した経緯
- 収入の状況
- 家族構成
- 生活状況
例えば,扶養家族のいない,年収1,000万円の健康な人が,150万円の借金で自己破産をすることは認められにくいといえます。逆に,借金額が150万円でも,収入が年収100万円であれば,支払不能と認められやすくなります。
自己破産できない理由(2)免責が不許可となるケースに当てはまること(免責不許可事由の存在)
借金を作った原因や,自己破産手続に関連して債務者の言動に問題があった時は,裁判所が免責を不許可にすることがあります。これを免責不許可事由と言います。
免責は,負っている債務の支払義務を免除するもので,自己破産をする意味は免責を得ることにあります。極端に言えば,免責許可決定が下りなければ,自己破産をしても意味がないとも言えます。
免責不許可事由に当たる例としては,以下のものがあります。
- ギャンブルや贅沢な買い物などの浪費,FXや株などの投資により作った借金である
- 自己破産に際し,意図的に財産を隠したり,減少させたりする
- 現金化目的で商品を購入したことがある
- 特定の債権者だけを優先して借金を弁済する(偏頗弁済)
- 自分が支払不能だとわかっていて,自己破産をする前提で,お金を借りる
- 裁判所に嘘をついたり,説明を拒んだりする
- 過去に自己破産したことがある場合,前回の免責から7年経っていない
免責不許可事由の該当性や軽重にもよりますが,免責不許可事由があったとしても,裁判所が裁量により免責を認めるケースが多いです。ギャンブルや浪費などがあったとしても,債務者が真摯に反省し,生活を立て直す意欲があれば,裁量免責となることが多いでしょう。自己破産手続に対し,誠実に,嘘のない態度で挑み,やり直す意欲を裁判所に求めてもらうことが重要です。
(3)税金などの非免責債権が債務の中心であること
債務を多く抱えていても,債務の内容が税金や養育費など,非免責債権が中心の場合は,免責により債務の支払義務が無くなることがありません。
免責すれば,原則として借金などの債務が無くなります。債務者は救われますが,代わりに裁判所が支払うわけではないので,債権者はお金が手に入らなくなります。例えば,税金関係や,子どもの養育費といった債務について,自己破産をすることで支払わなくてよくなるというのは,社会通念上問題がありますね。
破産法では,公共上の理由や,特定の債権者を保護するべき事情があるときは,非免責債権として,自己破産で免責決定を得ても支払義務が免除されないとしています。非免責債権には,以下のようなものがあります。
- 税金や社会保険料
- 罰金
- 婚姻費用や養育費
- 交通事故による損害賠償金(条件あり)
- 従業員に対する賃金
このような債権が負債の中心であれば,自己破産をする意味がないため,事実上自己破産ができないケースと言えます。
自己破産ができない場合,どうするべきか?
自己破産ができないケースであっても,任意整理や個人再生といった他の債務整理で借金の負担を軽くすることが可能です。
・任意整理
借金の負担が比較的軽い人に向いています。弁護士を通して債権者と交渉し,利息の免除や返済計画の見直しなどに同意してもらう手続きです。この手続きでは,借金の元本は原則として全額支払います。
裁判所を通さない私的な交渉なので,面倒な手続きや数多くの書類の提出もなく,同居の家族にも知られずに解決できることが多いです。また,対象となる債務を選べるため「貸金業者の借金のみを減額し,個人から借りたお金は全額支払う」といった解決も可能です。
(ただし,任意整理から,自己破産や個人再生へ方針を変更する場合には,こういった返済内容が問題となりますので,注意が必要です。)
注意点としては,継続した収入が必要であることと,債権者が交渉に応じないケースもあることです。
・個人再生
将来にわたって継続した収入が見込める場合,裁判所を通して,借金の総額を5分の1(最大10分の1)程度に大幅に減額できる,個人再生手続が可能です。個人再生では,自己破産のように,財産を手放す必要もなく,職業の資格制限もありません。
個人再生の最大の特色は,「住宅ローン特則」という制度を利用すれば,住宅ローンを支払い中の自宅にそのまま住み続けられるということです。
注意点としては,債務が完全に無くなるわけではなく,圧縮後の債務は原則3年(最大で5年)支払わなければならないことと,手続きが債務整理の中でも特に手間がかかることです。
・過払い金返還請求
弁護士などの専門家に債務整理を依頼すると,借金の正確な金額を調査します。その過程で,過払い金が見つかることがあります。
過払い金とは,利息制限法の規定よりも多く払いすぎた利息のことで,2010年6月以前に借金をして返済していた場合は,過払い金が発生している可能性があります。過払い金があった場合は,貸金業者などに返還を請求することや,現在の借金と相殺して負担を軽減することが可能な場合があります。
完済している債務の過払い金請求には,特にこれと言ったデメリットはないので,心当たりがある方は,一度調査されてみると良いでしょう。
・税金の未払いなどは自治体の窓口に相談
主な負債が税金などの非免責債権の場合は,お住いの市区町村の役所に相談することで,支払い方法の変更などに応じてくれることが多いです。税金を滞納していると,差し押さえを受けることもあるので,支払いに困ったら早めに役所に問い合わせましょう。
自己破産しない方が良い場合
自己破産をしないほうが良いケースの代表例は,自己破産手続によって資格に制限が課せられる職業に就いており,手続き中の資格停止によって仕事に影響が出てしまう場合です。また,ローン返済中の自宅や財産(車など)を手放したくない場合も,財産を守るためには,自己破産はおすすめできません。
①資格制限のある仕事に就いている場合
自己破産の手続きを取ると,「破産者」である期間は,一部の職業に就けなくなります。資格制限を受ける職業には,以下のようなものがあります。他にもありますので,ご自身の資格が当てはまるかどうか,ネット検索などで確認してみてください。
- 弁護士や税理士などの士業
- 警備員
- 生命保険の募集人
- 旅行業務取扱の登録者や管理者 など
これらの職業の資格制限は,免責決定後復権し,「破産者」でなくなれば解除されます。一般的には3か月~6か月程度なので,勤め先によっては,事前に相談することで,その期間だけ資格を使わない別の部署に回すなどの対応を取ってくれる場合もあります。
※自己破産を理由に会社を辞めさせられることはなく,仮に辞めさせられた場合は不当解雇に当たる可能性があります。
②財産を手放したくない場合
自己破産をすると,生活用品などを除く一定金額以上の財産は,裁判所によって処分換価されてしまいます。処分対象となる財産は,実務的には20万円以上の価値がある物品や不動産とされています。価値が出てしまう車や,どうしても手放したくない形見の品など,20万円以上の財産を守りたい場合は,任意整理や個人再生をしたほうが良いでしょう。
(自由財産拡張申立てが認められれば,合計で99万円以下の財産は手元に残ることが可能ですが,これは最終的には裁判所の判断になります。)
また,個人再生であれば,住宅ローン返済中の自宅を手放すことなく,借金を大幅に減らすことが可能です。
③税金などの非免責債権が多い場合
先述したように,税金などの非免責債権は債務が免除されませんので,お住いの地方自治体の窓口に相談されることをお勧めします。
自己破産が許可されなかった場合,どういう対処をすべきか?
裁判所が免責を認めてくれなかった場合は,その結果に対して即時抗告(破産法9条)することが可能です。即時抗告とは,一定の期間のうちに裁判所の決定・命令に不服申し立てをすることです。即時抗告によって主張が認められれば,免責不許可決定が覆って,免責される可能性があります。
(その逆として,免責許可決定に対して,債権者が即時抗告をすることも可能です。)
即時抗告をしても免責が認められなかった場合は,任意整理や個人再生手続で借金を整理することになるでしょう。
以上
東京弁護士会 登録番号 53737
困っている人を助けたい、という想いから弁護士を志しました。
女性でも相談しやすい環境をご用意していますので、お気軽にご相談ください。
【経歴】
明治大学法学部卒
明治大学法科大学院修了
東京弁護士会所属(司法修習68期)